いい精神科医と悪い精神科医を見極める方法
―― 一方で、読み進めるうちに「これだけ患者に真摯に向き合ってくれる精神科医が実際にどれだけいるのだろうか」とも思ってしまいました。
読者の方にもよく聞かれるのですが、いることはいるんです。クリニックで働いている先生の中にも弱井のような特徴を持った先生方はいらっしゃいます。
例えば、コミックス3巻のPTSD編(震災編)で書いた、「夜中に予約のメールを送るということは、“いま”苦しんでいるのだから一刻も早く診てあげよう」というのは、実際に取材先の先生に聞いた言葉です。ただ、そういう先生の割合は高くはないんですよね。その格差は他の科よりも大きいと思っています。ですので、『Shrink』ではそういった精神医療の中の格差もテーマとして取り上げています。
――ちなみに、いい精神科医と悪い精神科医を見極める方法はあるのでしょうか。
まず、「精神科」を標榜しているかどうか、先生が精神科の専門医であることが前提として大事です。そのうえで、初診で生育歴なども含めて時間をかけて聞いてくださる先生には、いいお医者さんが多いと思います。
ただ、精神科は特に患者さんと先生の相性が大切だと思うので、ひとつのクリニックが合わなくても、できれば「精神科がダメ」とは思わずに、自分に合う先生が他にもいるかもしれない、と考えていただけたらいいなと思います。
――漫画に描かれていたように、「精神科」と「心療内科」の違いも実はわかっていない人が多いですからね。
そうなんですよね。1巻はそうした感想が本当に多かったです。なんとなく心療内科のほうが行きやすいようなイメージがあるんですよね。
――第1巻は、特にこの漫画の根幹にある考えが描かれていると思いますが、なかでも「僕はこの国に、もっと精神病患者が増えればいいと思っています」という弱井先生のセリフは強烈だなと思いました。このセリフの真意を教えてください。
精神科に通うハードルが下がれば下がるほど、いまよりも楽に過ごせる人が増えると思っているので、そういう意味で書きました。私もわりとショッキングなセリフだなとは思ってはいたんですけど、編集部のチェックもそのまま通ったので「よかった」と(笑)。本編を読んでいただければメッセージはちゃんと伝わると思いますし、『Shrink』の読者さんには制作側の意図を汲んでくださろうとする方も多くて。ありがたいなと思います。
――精神医療をテーマに描いていても、決して、露悪的な漫画ではないですからね。
現在悩んでいる方ならこの内容でも、読んでいてつらい…と感じることはあると思うんですよ。だから、少しでも気持ちを楽にして読めるように、必ずハッピーエンドで終わるように決めています。
取材・文/森野広明
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