携帯電話に残された、2023年12月31日の写真

公費解体の申請が出ている以上、輪島市が解体しようと思えば、いつでも五島屋ビルを解体できるという。だが、国土交通省が原因究明に乗り出したため、解体を待つよう輪島市に要請を出している。

国土交通省による調査は現状、有識者が調査する方法を模索している段階で、今秋には何らかの方針が決定する予定だ。まだ調査にはしばらく時間がかかりそうだが、楠さんはそれについてどう思っているのか。

危険なのは、倒壊した五島屋ビルだけではない。周辺を歩くと、至るところでマンホールが歩道から飛び出していたり、歩道自体がガタガタで歩行困難になっていたりする場所が多い(写真/幸多潤平)
危険なのは、倒壊した五島屋ビルだけではない。周辺を歩くと、至るところでマンホールが歩道から飛び出していたり、歩道自体がガタガタで歩行困難になっていたりする場所が多い(写真/幸多潤平)

「原因がわかったとしても、すべてが片付くということではない。でも、あのビルが解体されて更地になったときに、ひとつ区切りはつくのかなとは思っている。ふだん、だらしなくても、いざというときに家族を助けるのが親父って思っていたから。俺にはそれができなかった。その負い目は、ずっと残るんだろうけど。

ただ、1日でも早く解体してほしいかって聞かれると、どうだろうな。こっち(川崎市)に来て、『地震はもう終わった』と思っている人をたくさん見てきた。でも、輪島市の人みんながパッと地元から出ていけるわけじゃないし、輪島市の状況は伝えていかなきゃいけないって思っている。

幹線道路など、地震発生直後から比べればよくなった部分もあるが、それでも震災から半年経過した今でも、多くの道路がガタガタなままだ(写真/幸多潤平)
幹線道路など、地震発生直後から比べればよくなった部分もあるが、それでも震災から半年経過した今でも、多くの道路がガタガタなままだ(写真/幸多潤平)

俺が今できることといえば、魚もそうだけど、お店で使う伝票もビニール袋も、パックだって輪島市から取り寄せている。朝市がなくなって、飲食店もあれだけなくなって、きっと困っているはず。そういう部分を考えると、事態を風化させないために、あのビルをそのままにしておいてもいいんじゃないかって思いもある。もちろん、現実的にそれは無理だってわかっているけど。

悲しみが癒えることはないのかもしれないけど、とにかく何かをやらなきゃ始まらない。そんな思いで生きている」

「悲しみは癒えないけど、何かをやらなきゃ始まらない」と語る楠さん
「悲しみは癒えないけど、何かをやらなきゃ始まらない」と語る楠さん
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倒壊した家屋から出てきた古い携帯電話には、2023年12月31日にみんなで「NHK紅白歌合戦」を見ていたときに撮影した家族写真が収められている。

楠さんは、今はまだその携帯電話には触れずにいるという。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班