アレルギー科を受診した患者さんの症例

アレルギー科を外来受診されて化学物質過敏症と診断された患者さんの症例です。

〈ケース1〉30代女性食物アレルギーの疑い

リンゴ、メロン、イチゴなどを摂取すると口腔内がかゆくなる、イガイガする、清涼飲料水を摂取すると腹痛やめまいがする、市販のお弁当を食べると口の中に血豆ができるという症状があり、受診されました。

これだけであれば、アレルギー科医は食物アレルギーを疑います。リンゴやメロン、イチゴを食べると口の中がイガイガする場合は、花粉食物アレルギー症候群による口腔アレルギー症候群の疑いありです。

これは、花粉アレルギーの人が、似たようなタンパク質を持つ果物や野菜に対してアレルギー反応を起こしてしまう疾患です。

清涼飲料水で症状が出るとなると、エリスリトールと呼ばれる天然の糖アルコールによるアレルギー反応ではないかと考えます。

エリスリトールは、メロン、ナシ、ブドウなどの果実や発酵食品に含まれていて、天然の甘味料として清涼飲料水や菓子類などに添加されています。赤い清涼飲料水であれば、赤色のコチニール色素によるアレルギー反応ではないかと考えられます。

詳しく検査しても、この患者さんはいずれの食物アレルギーにもあてはまりませんでした。さらに話をうかがうと、匂いにとても敏感で、香水や柔軟剤の匂いの強い人が近くにいると、めまいがしたり息苦しくなったりするとのことでした。

結果、嗅覚過敏が要因と見られることから、化学物質過敏症と診断されました。

イラストはイメージです
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〈ケース2〉40代女性薬剤アレルギーの疑い

自宅の近くのクリニックで抗菌薬(抗生剤)を処方され、自宅に戻って服用すると、飲んでから15分程度で、めまいや吐き気の症状が出ました。

薬剤アレルギーの疑いで受診され、さらに問診を続けると、抗菌薬だけではなく、胃酸を抑える薬(制酸剤)や痰を出しやすくする去痰薬を飲んだ時にも、同じような症状が出たということです。

ある系統の抗菌薬だけにアレルギーが起こることはありますが、抗菌薬もダメ、胃薬もダメ、痰の薬もダメといった薬剤アレルギーは原則考えられません。

負荷試験として、症状が誘発された抗菌薬を再度少量から服用してもらいましたが、症状は何も出ませんでした。

この患者さんの場合も、嗅覚が敏感で、香りの強い洗剤や漂白剤を使用しないようにしているとのことでしたので、嗅覚過敏が要因と見られる化学物質過敏症と診断されました。

図/書籍『化学物質過敏症とは何か』より
写真/Shutterstock

*1 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編『高血圧治療ガイドライン2019』特定非営利活動法人日本高血圧学会、2019年
*2 Watai K, Fukutomi Y, Taniguchi M, et al.: Epidemiological association between multiple chemical sensitivity and birth by caesarean section : a nationwide case-control study. Environ
Health 17(1):89, 2018.
*3 Kreutzer R, Neutra RR, Lashuay N : Prevalence of people reporting sensitivities to chemicals in a population-based survey.Am J Epidemiol. 150(1):1-12, 1999.
*4 小倉英郎「化学物質過敏症小児の現状とその対応」『アレルギーの臨床』12月臨時増刊号、第41巻第14号(28-31)、北隆館、2021年

化学物質過敏症とは何か
渡井 健太郎
化学物質過敏症とは何か
2024年6月17日発売
990円(税込)
新書判/176ページ
ISBN: 978-4-08-721321-8

潜在患者は1000万人以上。
それは、「●●●」な疾患!
(答えは本書に)

アレルギーだと誤診、喘息だと過剰治療、気にしすぎだと放置……。
社会に誤解され、医療から無視されがちな“ナゾの病”がよく分かる!

近年、全世界的に患者数が急増している「化学物質過敏症」。
現在の患者数は約120万人で、潜在患者は1000万人以上とも言われています。
誰にでも発症の可能性があり、一度罹患すると日常生活や社会活動に著しく支障をきたすにもかかわらず、症状が多岐にわたるためアレルギーと誤診されたり、気にしすぎだと放置されたりしがちなのが実情です。

本書では、この疾患の臨床および研究に第一線で携わる医師が、医学的エビデンスに基づいた最新の知見や治療法を解説。
この“よく分からない疾患”の正しい理解、正しい受診、正しい解決へとつなげます!

【目次】
はじめに
第1章 誤診・過剰治療の現実
第2章 化学物質過敏症ってどんな疾患?
第3章 合併しやすいアレルギー以外の疾患
第4章 診断と対策
第5章 診療現場の現状と問題点
第6章 最新の研究事情とこれから
おわりに

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