有病率と発症年齢、性差
渡井ら相模原病院のチームが2016(平成28)年に行ったウェブ調査では、化学物質過敏症の日本での有病率は総人口の0.9%です*2。
一方、海外では0.5~9%、米国では2016年の調査で12.8%と報告されています。化学物質過敏症という疾患の認知度は海外のほうが高いので、その分有病率が高いと考えられますが、日本での有病率はこれからまだまだ高くなる可能性があります。
また、発症の要因として過敏症(アレルギー素因)があるため、気管支喘息を持っている患者さんのほうが、健常者より化学物質過敏症の合併率が高いと報告されています。
発症年齢のピークは10~20代ですが、発症してから約10年後に受診する場合が多く、外来受診の患者さんの年齢層は30~50代がメインです。医療従事者のみならず、社会的な認知度が低いことで診断の遅れが生じたり、重症化したりする可能性があります(図2)。
では、性別はどうでしょうか。
日本や海外の調査で、男性よりも女性に多いことが報告されています*3。具体的な男女比は報告によってバラツキはありますが、男性3:女性7程度です。渡井ら相模原病院のチームがウェブで大規模に行った調査でも、男性4:女性6でした。
実際に受診される成人の患者さんに限ると、男性1:女性9、あるいはそれ以上と、女性の比率が圧倒的に多いようです。小児科医の報告では、小児の場合、男児と女児の比率は同じぐらいです*4。
このような性別による罹患率の違いは、もちろん他の病気でもあります。全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome)といった、自分の免疫が自分の体を攻撃してしまう膠原病という病気も、女性のほうの比率が高くなっています。
また、化学物質過敏症に合併することがある線維筋痛症や片頭痛も、女性に多いことが分かっています。
まだ、なぜ女性に多いのかという疑問に対する明確な答えは出ていませんが、女性ホルモンの増減、女性でも産出される男性ホルモンの影響、マイオカイン(脳に影響を及ぼすホルモン)を産出する筋肉の量が女性のほうが少ないことの影響、女性のほうが化粧品や香料など化学物質への曝露が多いといった生活環境の違いなど、さまざまな要因が考えられています。
小児では男女比が同程度なのに、成人になると女性の比率が圧倒的に多くなるのは、やはりこうした要因によって男性のほうが重症化しにくい可能性が考えられます。