重症気管支喘息の場合
気管支喘息は、成人の10人に1人程度に認められるありふれた疾患ですが、実際は実に多様で、専門医でも診断に難渋するケースがあります。
空気の通り道である気管支(特に肺まで行った先の奥の細い気管支)が敏感で、咳や喘鳴(ぜいぜい、ヒューヒュー)といった症状が見られます。気管支喘息の診断にあたっては、肺活量を測定するようなイメージの呼吸機能検査で、1秒間に何mL息を吐き出すことができるかを検査します。
さらには、気道可逆性試験といって、気管支を広げる薬を患者さんに吸ってもらい、吸う前と吸った後で、どれくらい呼吸機能が改善するかを見ます。
また、どれくらい気管支が敏感かを調べるため、あえて気管支を刺激する薬を吸ってもらうこともあります。
そして、吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の濃度を調べて、気管支喘息特有の所見、すなわち気管支に「炎症」があるかを検査します。
ここで大きな問題となるのは、気管支喘息の絶対的な基準値(診断基準)が世界的に存在しないことです。
気管支喘息は、小児期にダニなどのアレルゲンが原因となり発症するだけでなく、大人になってから喫煙や大気汚染とも関係なく突然発症する、肥満が悪さをしている、精神的な側面が悪さをしているなど、さまざまなパターンがあることが分かってきています。そのため、前述のような検査では、単純にすべてを定義できないのです。
喘息の典型例はある程度定義できても、そこから外れている人が多いため、最近では「喘息は、さまざまなタイプの患者さんがいるから、さまざまなタイプの集まりの疾患、つまり"症候群"である」といったように表現されます。
気管支喘息という病名は、今でも用いられており、「気道が敏感で、慢性的に咳や息苦しさがある状態」を指すことが多いのですが、患者さんによって違うタイプの可能性があるのです。
先述のように、小児の気管支喘息ではダニがアレルゲンとして悪さをすることが多いのですが、成人ではダニが関与していないケースが多く、体質によるものなのかも分かっていません。喫煙や黄砂を含む大気汚染が原因とは考えにくい患者さんも多くいます。
このような背景も絡み、化学物質過敏症による呼吸器症状を気管支喘息と誤診してしまうようです。
保険が適用される吸入薬、内服薬、注射薬を全部使っても良くならずに重症の気管支喘息と診断された患者さんが、全国から紹介されて私が現在勤務する湘南鎌倉総合病院を訪れてきます。その9割以上は、化学物質過敏症なのです。
通常の気管支喘息であれば、特殊な状況を除き、基本治療薬である吸入ステロイド薬をある程度使用すれば良くなります。
特殊な状況とは、喘息以外の合併症として、嗅覚低下が持続し、喉に痰が慢性的に垂れ込む「慢性好酸球性副鼻腔炎」や、いわゆる解熱鎮痛剤で発作が出る喘息で、副鼻腔炎・鼻茸(鼻ポリープ)を合併するために嗅覚の低下が生じる「NSAIDs過敏症」、そしてカビの一種のアスペルギルスにアレルギー反応があるなどです。
これらの合併症や反応があると、喘息の吸入ステロイド薬を多く使用しても咳などの症状をコントロールしづらいのです。
合併症がなく、吸入ステロイド薬を多く使用しても、さらには注射薬を投与されても良くならない場合は、まずは「気管支喘息ではない。あっても喘息自体は軽症で、他の原因がある」と考えるべきです。
そして、喘息以外に咳の原因となりうる睡眠時無呼吸症候群や逆流性食道炎の合併を確認し、嗅覚低下ではなく嗅覚過敏があれば、ほぼ確実に化学物質過敏症であると判断できます。