歯科技工所は「残業が多い割に、給料が安い」

歯科技工士が抱える問題は、それだけではない。

「そもそも歯科技工所の95%が従業員5人未満で、そのほとんどが1〜2人でやっている零細ラボです。しかも高齢化が進んで、今は40歳以上が7割、60歳以上も2割近くを占めています。10年後に歯科技工士がどれだけ減っているのかと考えると、恐ろしくなりますね。

また、技工士学校の入学者は減少の一途を辿っていて、どこもほぼ定員割れの状態です。技工士の免許を持つ人は一定数いるのに、現場の人数はどんどん減っているという現象も進んでいます。

その理由は、労働条件が決していいとは言えず、残業が多い割に給料が安いからです。その結果、技工士の高齢化が進んでいるのも問題です」

取材に応じた関東近郊の歯科技工士
取材に応じた関東近郊の歯科技工士

歯科技工士が苦境に喘いでいる現状は、今の一般的な歯科診療現場にも悪影響を及ぼしているようだ。自嘲しながらも、A氏はこう警鐘を鳴らす。

「私たちは歯医者さんから(患者の)歯型を預かり、その歯型に材料を入れて、口の中と同じ形を再現します。それをもとにちゃんと作れば、基本的に患者さんの口の中にピタッと合うものが作れるんです。

両側の歯がちょうどよく当たり、隙間もなく、力をいれないと入らないということもない。私たちは、噛んだときにほかの歯と同様に当たるように作っているから、ぴったり合うはずなんですね。

でも、ダンピングに精を出し過ぎているラボが作る詰め物やかぶせ物は、口の中に入れても、まず合いません。入らないから、歯医者さんが片側を削り、咬合紙を使って噛み合わせを見る。そうしているうちに、技工士が再現したはずの歯の形が、しっちゃかめっちゃかになってしまうんですよ。

それでも入らない場合は、義歯の上の部分をガンガン削って、下の部分を漉(す)いて入れる。すると、下の部分がスカスカなので、3〜5年経てば虫歯になってしまい、患者はまた歯医者に通うハメになる。

『これ5年くらい前に入れたんですけど』『ああ、それはあなたの磨き方が悪いから虫歯になっちゃったんですね。ちょっと治しましょう。これからはちゃんと磨いてくださいね』というやりとりが繰り返されるんです。

入れ歯作成に使用される歯
入れ歯作成に使用される歯

歯医者から『歯を磨いていない』と言われたら、患者は『しょうがないな』と納得してしまうでしょう。でも、最初からちゃんとしたものを入れていれば、そんなことにはならない。

歯医者も安い粗悪品を患者さんの中にとりあえず押し込んで、それで終了にしちゃう。それが、歯科医療の現状なんですよ」