マイナカードが浸透しない背景
ここで読者の中には、2023年にマイナンバーカードに別人の情報が7000件以上登録されていた件を思い出す人がいるかもしれない。この問題があったせいで、世論調査でもマイナ保険証への移行の延期や、撤回を求める声も出ている。
だが、こうしたケースでは、事例数だけでなく、その比率を考慮することが重要だ。7000件という事例は、国民全体の0.0056%にすぎない。約1.8万人に一人という確率のため、年末ジャンボ宝くじ4等5万円の当選確率である1万人に一人よりも低く、その半分程度にすぎない。
このように確率の観点から考えると、筆者なら1.8万人から選ばれるとはあまり考えない。だが、世論調査の結果をみると、こういう場合は「自分が該当するかも」と不安を覚える人も多いようだ。
こうした心理的な反応は避けられないが、一方で報道ではあまり批判を煽らないほうがいい。新しい制度へ移行する際には、一時的なミスが発生する可能性はあるが、まったく移行しない場合、永続的なデメリットが生じるからだ。一時的なミスと永続的なデメリット、この双方をしっかり比較検討することが、国民の不安解消のためには必要だ。
筆者は20年ほど前の官僚時代、国税電子申告・納税システム(e-Tax)の構築に携わった経験がある。これは、国民の確定申告など納税に関する作業を簡単にできるようにするシステムであり、一部を改良すれば国民にお金を配布することも可能だった。
それなのに、お金を徴収するシステムはいち早くつくり、配布する準備には20年もかかった。これが、新しいシステムに移行しないことで生じるデメリットの一例だ。
マイナンバーカードの健康保険証利用は2021年10月から始まり、2023年9月からは全ての医療機関・薬局で利用可能になった。現在も急ピッチで環境整備が進んでおり、いずれは本人の再確認がほとんど不要となり、医療機関・薬局でも事務コストの低減が実感されていくだろう。
文/髙橋洋一