災害時における国債の役割
経済を活性化させるには、むしろ減税が適切だ。災害時に増税するという愚策を、筆者はかつてきいたことがない。
災害時には政府の税収が一時的に減少するかもしれないが、だからこそ財源確保のために国債を発行することが重要なのだ。それも100年債、500年債といった超長期国債が適している。
国を揺るがすような大災害は稀で、100年に一度、500年に一度というレベルだ。そのため、今から100年、500年をかけて大規模な災害に備えるため、世代間で復興財源を提供し合い、100年、500年をかけて返済していけばいい。
国債は国の借金だから悪である、将来世代に借金を押しつけることになる、というイメージで批判する人もいる。しかし、税収だけで国を運営するのは不可能であり、国債を発行して必要な資金を集めるべきだ。
税金は国民が支払う義務を負うが、国債は欲しい人だけが購入すればいい。税金を未納にすると脱税という違法行為になるが、国債を買わなくても誰からも文句を言われない。国にお金を貸したい人だけが貸し、その見返りに利息収入を得る。こうして国は運営されている。
それに、災害が起こった世代だけで復興財源を出すのは不公平だ。こうした考え方は、経済理論である「課税の平準化理論」に基づいたものであり、一般的な見解である。
本来、景気のいい時期は税率を上げて、景気の悪い時期には税率を下げることによって、経済の安定化を図るのだ。国債には災害復興だけでなく、未来への投資という目的もある。現在の国債発行額では投資額が不足しており、例えば「教育国債」といったかたちで投資すべきだ。
一般的に、教育水準の高い人ほど所得が多くなる。高所得者は納税額も増え、国への貢献度が高まる。いわば出世払いで、将来世代が成長し、投資効果が表れれば、その人たちに貢献してもらえる。そのほうが、よほど税収アップにつながるというものだ。
もっとも、市場では、赤字国債と建設国債が区別されていないように、教育国債として発行されるわけではない。単に国債の利率と償還期限で購入の判断はなされる。
あえて教育国債を設ける理由は、国債を売却したお金を、より多く教育に割くようにするためだ。教育の無償化も国債で賄えばいい。
国の投資対象には、公共投資としての図書館や体育館などの建物、いわゆるハコモノがある。それも多少の雇用創出にはなるが、教育への投資が有形資産への投資よりもはるかに大きな効果があることはすでにわかっている。
不動産という有形資産だけでなく、人材という無形資産にもっと投資をしてみてはどうだろうか。そのほうが、社会的により大きなリターンが期待できる。
文/髙橋洋一