キャスティング権を完全に握りたかった
――小路監督は、師匠にあたるような人はいるのでしょうか。
いないんですよ。映画の専門学校に行って、仲間たちと自主制作をしながら、そのまま監督になってしまったので。専門学校の同級生が『ケンとカズ』でカズを演じた、俳優の毎熊克哉なんです。彼はカメラマンコースに通っていて、照明を手伝ってもらったりしてました。
――経験として、助監督をやってみたかったとかは?
絶対やりたくないですね。やっていたら、映画作りもやめていたと思いますよ。とにかく命令するのもされるのもイヤなんです。今の僕の映画の作り方も、縦社会ではなく、常にお願いベース。「やっていただけますでしょうか……」って。監督の名前がついた「〇〇組」という、映画ならではのファリミリー感も一切経験ないです。そういう体制を持っているほうが、長続きはすると思うんですけどね。
――世にある映画たちが先生、という感じですか。
そうですね。誰にも教わらず、ひたすら映画を観て学びました。僕の作品はオマージュで成り立っているところも大きいので。
――自主制作にこだわる、最も重要なポイントは?
役者ですね。自分のやりたい映画を追求するために、キャスティングもすべて自分が考えたいんです。最初から役者が決まっているのはもちろんイヤですし、そもそも役者ありきで「この人で撮りたい」と思えるような役者に残念ながらまだ出会ったことがなくて。でもそれは役者のほうも同じで、今のキャスティングの進め方に不満を持っている人はたくさんいると思います。
――オーディションにかなり時間をかけるとのことですが、独自のやり方があるのでしょうか。
オーディションのやり方自体は普通です。役に合わせて、かるくセリフを言ってもらったり、動いてもらったりとか。その感触によって、別の役でまたオーディションを受けてもらったりもしますし、ときには台本のほうを書き換えたりもします。
『辰巳』でいうと、主役の遠藤雄弥さんは最初、別の役でオーディションを受けてもらったのを見て、辰巳役のオーディションにも来てもらいましたし、森田想さんの役はもともと男性だったのを、別の役のオーディションで彼女を見て、台本を女性に書き換えました。
――森田想さんをオーディションで見て、受けた役よりもあっちの役のほうがいいな、でもあっちの役は男性だから、設定を女性に変えよう、という流れですか。
そうです。設定を書き換えました。実際に役者と対峙するオーディションってそのくらい重要ですし、やってる人は少ないんですよね。