熱く、血がたぎるような親友

 話があちこちするけど、クリハラ君は大学でもチャンピオンになって、オリンピックの代表にもなる。その後プロになってけっこういいところまで行ったんですが、どういうわけかやくざ社会に行くんですね。
 あるとき新聞を見たら、アメリカに渡った彼が二百五十丁の拳銃を密輸しようとしてロス警察に逮捕されたという記事が出ている。あいつ、本格的なことやってるなあ、と驚きましたけど、しばらくして、そのクリハラ君がぼくに手紙を寄越したんです。逮捕されて刑務所にいるんだけど、その刑務所で犬みたいなひどい扱いを受けてる、なんとかしてくれないかと。
 友人の弁護士の木村晋介にも相談したけど、どうしようもない。きっと刑務所暮らしがよほど耐えられなかったんでしょう、その後、彼は脱獄するんですよ。
 

―― 脱獄?

 映画みたいでしょう。後で聞いたら、アメリカの刑務所の敷地の後ろ側がオープンになっていて、そこをどんどんどんどん歩いていくと外に出ちゃうんだって(笑)。後に彼はそのときのことを本に書いているんですよ。まあ、なんだかんだあって、彼はコスタリカで暮らすことになった。久しぶりに日本に帰ってきたときに、東京のどこかのホテルのバーで十何年ぶりに会いました。その頃ぼくはもう作家になっていて、やつも向こうの人と結婚して、子供が何人かいる。そのときにちょっとまとまったお金を彼にあげたんです。彼も荒っぽい世界にいますから、多分察したんですね、ありがとよって。これも映画みたいな話。
 その後しばらく会わなかったんだけど、息子の岳がボクシングを始めて、後楽園ホールでデビュー戦をやったんです。ぼくは名古屋で仕事があったので試合は見られなかったんだけど、うちに帰ったら「あしたのジョー」みたいに目の上に大きな絆創膏を貼った息子がいる。負けちゃったんですね。そのときに、「こんなもんもらったよ」といって封筒をぼくに渡した。封筒には「奨励金」と書いてあり、中には一万円入っている。誰からだろうと思ったら、クリハラ君なんですよ。うれしかったね。

 つまり、目黒と出会う前に、なんとも熱い、血がたぎるような親友がいたんです。クリハラ君とは会って話をすることは少なかったけど、でも、本当にお互いの力を認め合ってつき合っていた気がする。彼のことをちゃんと書かないと、自分の中で物書きとして始末がつかない気がしていたんです。そんなことがあって、「波」に彼のことを書いたんですけどね。