スーパータブーの「児童養護施設」を描く

ーー「子供なんか産まないほうがいい人間に限って軽々しく子供を産むんです」​という強烈なセリフが印象的だった登場人物の徳川園長は、北九州で児童養護施設を運営してきた一族の3代目がモデルになっています。この漫画についてどう言及されていましたか?

真実を世に出したことについて、感謝していましたね。一方で、私としては彼がいたからこそできた漫画だと思っています。ここまでの内容を出すとなったら、正直、どこからも許可を得られなかったでしょう。そのくらい児童養護施設はスーパータブーなんです。

ーー具体的には、どのような問題が潜んでいるんですか? 

地域差も大きいのですが、差別の象徴的なところでもありますね。北九州の場合は自分たちでこの地域のことをムラという言い方をしますが、児童養護施設は、ムラ人たちが生きていくうえでのひとつのシェルターという側面もあります。近親相姦で生まれた子どもを育てるのも役割のひとつとしてありました。

今でも、児童養護施設の出身というだけで就職先がない現実もあります。どれだけ頑張っていい大学を出てもダメ。施設の職員たちは当然のように卒園する子どもの身元保証人になり、「何かあったら自分たちが責任を取りますから」と、いろんな企業に頭を下げてきた歴史があります。

それからこの前、いくつか児童養護施設に取材に行って気づいたのですが、施設の敷地内にお墓があるんですね。よく見たら、身寄りのない施設出身者の無縁仏もあったんです。児童養護施設というのは、行き場のない子どもたちを丸ごと受け止めてきたんだなと、その重みを改めて感じました。

『それでも、親を愛する子供たち』より
『それでも、親を愛する子供たち』より

――1巻に収録された「【ケース1】にんじん」では、児童養護施設のベーシックな話を選んだとお聞きしました。今後の展開で考えていることを、言える範囲で教えていただけますか?

初回は児童養護施設というものを知らない読者が多いと思ったので、担当編集の岩坂さんと相談しながらこのエピソードを選んだのですが、一般の方はこれでもかなり驚いたみたいですね。ただ、どの職員に聞いてもそうなんですが、これは本当によくあることなんです。

これから描こうとしているのは、私たちでももっと「うわっ」と思ってしまうようなこと。例えば、性的虐待や性に対しての取り組みです。施設では避妊を教えるのではなく、できたときのことを考えるんですね。それが超現実対応だなと思いました。