多くの議論の余地を残した法案
<転居>
3〜4月に判明した中で特に衝撃的だったのが、この転居をめぐる政府答弁だ。
同居親の急な国内転勤に伴う転居について、4月25日(参議院 法務委員会)に友納理緒議員(自民)の質問に対する法務省(竹内努民事局長)の答弁で以下2点が明らかになっている。
・転居は子に重大な影響を与えるため、たとえ近隣(同一学区内)であったとしてもDに含まれる(=別居親の同意が必要)
・ただし、その例外として、父母の協議や家裁の手続きを経ていては転勤までに居所を決定できない場合はB(急迫の事情)に含まれる(=別居親の同意は不要)
あまりにも実態とかけ離れていて指摘すべきことが多いが、まず大前提として家裁への申立から結果が出るまで早くても数か月以上かかることをふまえると、辞令交付から転勤までに居所変更が間に合わないことが十分に考えられる。結果、転居を進められず、同居親は転勤を断らざるを得なかったり、それによって職場で待遇悪化(最悪の場合は退職)などの不利益を被る恐れが出てくるだろう。
さらに、転居先が同一学区内という近隣であっても、転居は子に重大な影響を与えるという理屈で、頑なにDに含められている。同一学区内ということは必然的に転校を伴わないため、生活圏も学校も友人関係もほとんど変わらず、子にそこまで重大な影響を与えないと考えられるが、別居親の同意が必要なのだ。これでは離婚後の同居親は自由な転居は事実上不可能となる。
ちなみに、この質問をしたのは自民党議員。この件に限らず、共同親権の国会審議では政党としては改正案に賛成のはずの与党議員も重要な答弁を複数引き出している。与党議員ですら危機感を持つほど、この改正案がまだまだ議論の余地を残していることを示唆しているともいえる。
また、全体的に定義・境目が曖昧であった他の項目(教育・手術)と異なり、転居については頑なに別居親の同意が必要な範囲を死守するかのような法務省の答弁が目立った。こうした姿勢からは、「離婚禁止制度」と呼ばれてしまうほどに共同親権の穴だらけの実態が垣間見えるようだ。(*今回紹介した国会質疑の更なる詳細は筆者のtheLetter「共同親権導入後に別居親の同意が必要な範囲の「広さ」と「曖昧さ」が招く大混乱」(2024年5月5日) 参照)
文/犬飼淳