「これだけ巧妙なら信じてしまう」
被害者として立ち上がったのは佐々木さんたちだけではない。現在、12人のSNS型投資詐欺被害者とともに、集団訴訟の準備をしているのは中部地方で夫と小学生の子ども2人と生活をする柳田さくらさん(仮名・39)だ。
「2024年から新NISAが始まるとの広告を目にしていて、周囲とも『新NISA、気になるよね』という話をよくしていました。だから7月くらいに株の本を購入して、ネットでも調べるようになりました。老後2000万円問題もあるし、子どももこれからますますお金かかってくるし、家のローンもありますし……」
昨年8月5日、柳田さんはFacebookで前澤氏の広告を見て、「前澤友作さんだし、安心できるかなと思ってしまいました。まさか写真が勝手に使われている偽物だとは思いもしなかった」とクリックし、S金融塾に登録した。
「最初はグループに入ってもただ見ているだけでした。そこでSのアシスタントだという人物が『Sを名乗って詐欺をしている人がいるので気をつけてください。私たちは詐欺ではないので信頼してください』と頻繁にアナウンスしていたので、ここは大丈夫なんだと安心していました」
そして、いきなり100万円を指定された口座に振り込んだ。
「でも、アシスタントから『今の情勢から、金額が多いほうが利率が高いから増やした方がいいですよ』と何度も連絡があって。利益も出ていたので安心して合計850万円を振り込んでしまいました。結婚して、子どもが生まれて、将来のことを本気で考えるようになってから、コツコツがんばって貯めてきた貯金すべてです」
それは柳田さんが週5日、朝8時半から夕方5時半まで介護士として10年間働いて貯めてきたお金だった。
それが、12月に入って「17日までに運営費を支払わないと今後の出金ができなくなる」と言われてしまう。柳田さんは、悩んだ挙句、銀行のカードローンを申し込んで350万円を借り受けて入金。すると今度は「25日には税金を払わないと出金できなくなる」との連絡が。
「もうお金がないからどうやって借りられるかネットで調べてたところ、ふと詐欺という単語が出てきたんです。そのページには私のケースとそっくりな事例が紹介されていました。弁護士の無料相談に連絡をとってみたところ、『それは詐欺です』と言われました。
そこで初めて『え? 私、詐欺にあったの?』と気づいたんです。第三者に言われるまで全然わからなかったです。なんでこんなのに騙されるんだ……と。私はふだんはどちらかというとしっかりしているほうで、オレオレ詐欺なんかに絶対に引っかからないと思っていたんですけど……すごく巧妙でした」
柳田さんは今も被害に遭ったことを家族に打ち明けられず、辛い思いを抱えたまま日常生活を送っている。同じ被害に遭った仲間が集うLINEグループだけが、その気持ちを吐きだせる唯一の場所だ。
「罪悪感があってめちゃめちゃ辛いです。打ち明けたら家族が崩壊すると思って、誰にも相談できなくて……」
そう言うと、涙を流して嗚咽をもらした。
「せっかく子どものためと思って貯めてきたお金が、子どもに1円も使えないまま全部なくなってしまったのが本当に悲しくて……。詐欺だとわかってから、子どもの顔を見ると本当に辛くて、毎日泣いていました。
家族のため、子どものためと思って、ちょっと勉強したかっただけなのに、子どもたちを裏切ることになってしまった。本当に悲しいです」
奪われたお金のうち一部でも返ってくればと、柳田さんは訴訟をする準備を進めている。
「これだけ巧妙であれば(誰でも)信じてしまうと思います。メタ社は許せないですね。広告を載せるならもっと精査してほしい。国もNISAとかこれだけ投資を勧めているのに、安全対策が不十分だったわけじゃないですか。その責任は重いと思います」
貯金を奪われただけでなく借金も背負っている現在、再び子どものために貯金をする余裕はない。それでも子どもの成長は待ってくれない。今後への不安は募るばかりだ。