ときにはお客さんに説教!

――吉原以外にも夜のお仕事の女性は多そうですね。

夜の女性といえば今でも思い出すのは神田のお客さん。「練馬まで乗せてやって」と男性がその女性を乗せ、1万円渡してくれたんです。そして走り出して男の姿が見えなくなった途端、女性から「そこで停まって」と言われました。つまりお釣りは9,000円以上! したたかだなぁ〜と思いました。男の親切を踏みにじり、私の営業を邪魔して…でも私がその立場でも、そうしますけど(笑)。

昼の浅草通り付近 写真/Shutterstock.
昼の浅草通り付近 写真/Shutterstock.

それと、上野から千住のほうへお送りしたホステスのお客さんも思い出します。すごい絡み酒で、「右に行って」と言っときながら「なんで右に行くんだ」、左に行けば「反対だ」と理不尽な要求の繰り返し。

さすがに頭にきて急転回、南千住警察署の前で「時間がかかりますが警察に状況を説明しましょうか、今なら引き返せますが」とハッタリをかましてしまいました。たぶん本当に警察署に入っていっても「当事者同士で」と言われるだけですが(笑)。

なのに「酔っていてごめんなさい」と急にお客さんの態度が変わったので思わず振り返ると、若いアイドル系のきれいな子。いつもチヤホヤされて叱られたこともなく、まさかタクシードライバーごときに反撃されると思わなかったのでしょうね。

元の目的地にお送りして、降りるとき「初めて説教されて目が覚めました、叱ってくれてありがとう。お釣りはけっこうです、少しですが迷惑料です」と思いがけず丁寧なお言葉で、手を差し出してきて握手して、「今度(お店に)きっと来てください」と名刺までいただきました。あれから10年経つし、そろそろ行こうかな(笑)

タクシーはラブホではない!

――他に無理を言うお客さんといえば、イメージ的にはヤクザの方とか。

そうですね、道を間違えると大変なことになりそうでいつも必死でした(笑)。あの人たちはよく電話をしていて、「親分これから飲み会は勘弁してくださいよ〜」とか言っているんですよ。でも実際に無理難題を言ってくる人は少なく、「ご苦労さん」って声をかけていただくことのほうが多いです。

タクシー車内のイメージ 写真/Shutterstock.
タクシー車内のイメージ 写真/Shutterstock.

――後ろでエッチなことが始まってしまうなどは……?

同僚が「ホテルでもないのに始まっちゃって参ったよ」って愚痴ってきたことがあります。「何が始まったの?」と聞いたら「女がしゃぶっちゃってよ〜、終わってなんて言ったと思う? 『出し過ぎ』だって! 急ブレーキかけて振り落としてやろうと思ったよ」(笑)。

タクシー運転手は、キスくらいだったら、当たり前でなんとも思わない。邪魔にならないし、ご自由にどうぞ。でも、「この2人、夫婦じゃないな」ってのはわかるもんです(笑)。

――さまざまなお客さんがいる中で、絡んでくる方のかわし方を体得されましたか?

だんだんとうまくなりました。どんなことを言われても「おっしゃる通りですよね、私なんか世の中の役に立たないタクシー運転手で申し訳ないです」ってへりくだって聞いていれば、そのうちお客さんの機嫌は直っちゃいますよ(笑)。