サウンドの中心はドラムの「シンバル」

──本作のシンセサイザーサウンドは、まさに縦横無尽で、ジェフ・ミルズサウンドの集大成のように感じられます。この素晴らしい宇宙的な音世界を実現するために、どんなアプローチをされるんですか?

宇宙というのは、そのすさまじい「距離」の問題が重要です。音でどのような広大な風景──例えば「星が散りばめられてる感じ」──で表現できるかどうかが問題になってくるわけですね。

もちろん音階だったり、シークエンスを選んだりするのが重要ですが、実は必要なのは「クリスプ」な音だったりするんです。(訳注:シャキシャキとした、パリっとしたノイズのような音のこと)

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──クリスプ! そんな音から着想を始めるですか! まさにテクノ的な発想ですね。それにしても宇宙のような広大なイメージを実現するには、例えばヘッドホンで聴いている音世界って結構せまいんじゃないかと思うんです。その中でどうやって、音世界を広げていくんでしょうか?

ですよね。だからなるべく「少ない音数」で作業を始めるんです。吟味された少しの音、その鳴りでイメージを突き詰めていく。

例えば、ある星の輝きのような情景が浮かんだとします。そのイメージを、「小さな音」と「クリスプなサウンド」で突き詰めていく。その音を中心にして、曲をつくっていきます。そこからリヴァーヴ、エコー、レゾナンスといった要素で、その音の響きを調整していくんですね。
 

──そうなってきますと、音源素材の問題も重要になりますね。デスクトップミュージックのアーティストですと、現在はPC内の「ソフト・シンセ」などのソフトを駆使して、音楽をつくっていきます。ジェフさんはどんな音源を使って音楽をつくられるんですか?

違う。僕はそもそもパソコンをスタジオに持ち込まないんですよ。で、例えば何の音から始めるかといえば、シンバルなんですよ! 僕はさまざまなシンバル音の中から自分の音楽をつくっていくことが多いんです。

──シンバル?

ハイハット、クラッシュ、ライドシンバルとか。そんなにたくさん持っているわけではないけど、いつも新しいシンバルサウンドを探しています。そして自分で叩いて録音します。いろいろな種類のシンバルで、さまざまな叩き方を試してみて、納得いくまで好きなイメージの音を追求していきます。

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──僕の知る限りではクラブ音楽のミュージシャンは「キック=バスドラム」の音を中心に音像をつくっていく人が多いです。K-POPなどは、現在では世界をリードしたキックサウンドを持ってますし。

そうなんですか? K-POPのことはあまり詳しくなく……(笑)。確かにキックの音やリズムは心臓の鼓動と呼応していますし、クラブ音楽にとっては重要な要素ですね。

──オリジナリティを出すために、録音するマイクの立て方や位置とかも重要になってきますよね。

もちろん、それも重要ではあるんですけど、それよりも考えるべきことがあります。「なぜこの音がここで必要なのか?」「この音が一体なにを象徴しているのか?」など、録音する音の必然性や意味について思考することが、僕にとっては一番重要なことなんです。

──まるで絵を書くように音楽をつくっていっているんですね。ジェフ・ミルズサウンドの奥の院をのぞいた気分です。