心残りの解消のために
一念発起した68歳の決意

現在、68歳になるヒロシさん(仮名)は今から約15年前、ある決意をした。

「ちょうど50歳を過ぎた時に妻と離婚をしたんです。原因は妻の浮気です。ただの浮気なら修復しようと思えたのですが、子供も連れて相手の男と旅行まで行っていた。子供を巻き込んでいたのがどうしても許せなくて、離婚をしたんです。

別れたのが53歳の時。ずっと家族のためにと仕事を一生懸命やってきたのですが、このまま仕事だけしていても後悔するなと思って、これからは自分のために時間とお金を使おうと決めたんです。離婚で鬱っぽくなっていたのかもしれないですが、ちょうど一気に性欲がなくなってきたという焦りもありました。面倒くさいからいいやと思ったら、男も終わってしまうんじゃないかということで、最後にあがいてやるって気持ちでしたね」

ヒロシさんにとって「自分のために時間とお金を使う」ことは、習い事をしたり、趣味を楽しんだり、おしゃれをするという意味ではなかった。なんと、性的に弾けてしまったのだ。

出会い系サイトや交際クラブに登録をしたり、既婚者合コンに参加をしたりした。当然、風俗も行けば、ハプニングバーなどややアンダーグラウンドな遊び場にも足を運び、常に5〜6人の女性と同時並行で付き合っている状態が続いていたという。
 

「人が経験しないことをしてやろうって気持ちもありましたね。某ホテルで複数プレイのパーティが開催されていたので、そういうものに参加したこともあります。危険だったら即逃げようと思いながら恐る恐る行ったんですが、結果的には大丈夫なもので、ホッとしました(笑)」(ヒロシさん)

この15年間で数えきれないほどの女性と体の関係を持ったというヒロシさんは、「自分を解放している女性」との付き合いにとても惹かれたという。

「女性と出会っていろんな話をすると、その部分での興味や関心があるのかないのかわかってくるじゃないですか。ある人はあるし、ない人はない。女性って本当に両極端だなと思います。女性が性的に自分を解放してくれたら、男ってそれでものすごくその気になっちゃうんだよね。

でも、女性がそのようになれるのは30代も半ばを過ぎてからなのかな。男って、やりたいだけの人もいるのかもしれないけれど、それだけを望んでいるわけではないと思うんですよね。少なくとも俺は、それだけを望んでいなかった。一緒にいて楽しいというか、信頼できる相手が欲しい。女性だって、お金なのかセックスなのか、相手に望むものは人によって違うと思うけれど、それだけを望んでいるわけではないでしょう?」(同)
 

現在、一緒に暮らしている女性がいるが、他にも付き合いを続けている女性が2人おり、体力がなくなりつつある今、このまま続けていけるかどうかが悩みどころだという。しかし、いつまでも男として格好良くいたいという気持ちがあり、その気持ちは歳を重ねても変わらないだろうという確信もある。

70歳が目の前に迫ってきたからこそ、「何もしなければ、おじいちゃん化してしまう」という気持ちとのせめぎ合いがあるのだとヒロシさんは話す。

「きれいな女性と一緒に街を歩いているとみんなが見てくれるじゃないですか。その優越感って男にとってはモチベーションになるんです。でも、それだけじゃ足りない。どんなにきれいな奥さんがいても、そこに信頼とか一緒にいて楽しいというのがないと、長い間一緒にいるうちにやっぱり満たされなくなっていく。

結果、みんなしたいんですよ。一緒にいて楽しい相手と、満足できるセックスを。そのセックスをできない人間が、妬みで批判するだけなんだと思っています。倫理観や道徳観を守って生きていったところで、誰かがそれを褒めてくれるかといったらそんなことはないでしょう。

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結局、幸せで充実していて、楽しい人生だったというのは自分が決めることなんですよね。避妊をするとか性病を持ち運ばないなどの最低限のルールは必要だけれど、その範囲内で楽しむ分にはいいんじゃないかな。最後、死ぬ時に俺の人生まんざらでもなかったって思えるように生きるのがいいよね。俺は今死んでも、そう思えますよ」

15年間の性的な冒険を経て、思い残すことがなくなったとヒロシさんは話した。性的により良い人生を生きる……今時の言葉なら〝セクシャルウェルネス〟だと言えるのではないだろうか。


写真/shutterstock

ルポ 高齢者のセックス(扶桑社新書)
中山美里
2024/3/1
1,045円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4594096908

超高齢化社会に突入しつつある日本。さまざまなシニア向けサービスやコンテンツが盛り上がる中、性風俗や異性紹介など男女をめぐる業界も例外ではありません。

日本家族計画協会の調査(2020年)によると、「セックスしたいか」という質問に対する60代男性の答えは、「よく思う」「たまに思う」を合わせると70%を超えました。つまり、7割強が「セックスしたい」と答えているのです。健康寿命が年々、伸びていくなか、密かに性的な行為をしたいという男女が増えていることはたしかでしょう。

本書では、高齢者とセックスをテーマに当事者や関係者60人以上に取材し、そこに集う人々にスポットをあて、インタビューを交えたルポ形式で60-90代のシニアの性生活を描写していきます。

「60歳未満お断り」をキャッチコピーに掲げる風俗店、そこで働く60代の風俗嬢、また史上最高齢88歳のAV女優、シニアのチャットレディ、80代後半で全国のストリップ劇場を行脚する男性、高齢者同士のマッチングビジネスや出会い喫茶、70歳以上の男性との交際を謳う「ジジ活」、高齢者専用派遣型風俗などなど…盛りだくさん!

近年、高齢者の心身の健康やQOL向上には「セックス」が欠かせないということが徐々に世間でも認知されつつあります。本書に登場する高齢者も、異性と関わりを持つことで生活に張り合いができ、心身ともに若くいられると証言しています。老後の「性」が徐々にタブーではなくなりつつある今、急激に変化する高齢者とセックスの実情に鋭く迫ります。

第1章 長らくタブーだった高齢者の性生活
第2章 増える高齢者の「出会いの場」
第3章 社会との関わりの場としての高齢者向け風俗
第4章 QOL上昇のためのシニア向け性娯楽
第5章 高齢者の性欲と向き合う社会

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