日本ではリスクを恐れて何もできない
──このドラマは実在の新聞記者を主人公にしたフィクションですし、ジェイクの名前以外は創作ですが、実際の事件を想起させるなど社会のタブーにかなり踏み込んでいると思います。一般論として、ハリウッドでエグゼクティブ・プロデューサーを務めた渡辺さんが日本の映像業界に対して思うことはあるでしょうか?
『TOKYO VICE』も実はちょっと腰が引けている部分があるけれど、やっぱりハリウッド製作だからここまで描くことができた、という事実はありますよね。
コンプライアンスという言葉に紛れて、あまりにリスクを恐れて何もできない現場を日本で何度も経験してきたんですよ。すべてのことを何となくぼかしてやってしまうみたいなね。「これはいつまで続くのかな?」と思ったりしますね。
あと、日本だとどうしても昔から実名は出さないという呪縛みたいなものがあるじゃないですか。特にポリティカルな話題や名前、あとは企業名を変えないと映画やドラマは作れないといった風土ができあがっている。
──せっかくの社会派の力作なのに、残念だなと思うことも多いです。
僕が出演した作品でもあります。そのひとつに世界規格となった家庭用ビデオテープレコーダー(VTR)の開発競争を描いた『陽はまた昇る』(2002)という映画。一部は実名を使っているんだけど、やっぱり変えざるを得ない名前もありました。技術者たちの苦しみや喜びを描いている映画だから別に誰にも迷惑かからないし、誰のこともネガティブに捉えてないのに。
相当食い下がったんだけど駄目でしたね。やっぱり映画会社がリスクヘッジを取るんだよね。とはいえ、一俳優の立場じゃ限界がある。僕が決定権のある社長だったら、「実名でいけー」って言うんだけど(笑)。
そういうのって、もう忖度しなくてもいいじゃないかと思うんですよね。首相の名前とか政党の名前とか、宗教と政治の問題や裏社会と政治家のつながりだって、なぜそれを実名で描けないんだろうと。日本はかなりオブラートをかけてスルーしていくでしょ。それじゃあ、今の社会を映せないよね。
アメリカの作品とか見ても、大統領の名前だろうが何だろうがガンガン実名でやってるじゃないですか。訴えられることもあるだろうけど、そこはロイヤー(弁護士)を入れてやっているはずで。