滋賀県に本社を置く人気のラーメンチェーン店「来来亭」。全国に多数の店舗を持ち、また、店名を冠したカップ麺がコンビニ棚の常連なこともあり、ご存知の方も多いだろう。
最大の特徴は、京都風醤油味の鶏ガラスープに、豚の背脂がたっぷりと浮かぶスープ。この組み合わせの妙が、あっさりしつつもコク深い絶妙な味わいを生んでおり、もちろん僕も大好きで、たまに無性に食べたくなっては、地元石神井にある店舗に足を運んでいた。
が、先日久しぶりに来来亭を訪れ、気まぐれにいつもと違うメニューを頼んでみたところ、「おれは今まで、来来亭のポテンシャルを10%も活かしきれてなかった!」と衝撃を受けるくらい、その日の気分にバチっと"ハマる"食事ができた。あの体験については、記しておかなければならないだろう。
ちなみにこれまで、僕が来来亭に行くとバカのひとつ覚えのように頼んでいたのは、名物であり、メニューのいちばんいいところにどーんと掲載されている「ラーメン」(740円)で、そこに「生ビール中」(530円)を添えるのが定番だった。来来亭は、麺の硬さやスープの味などを細かくチューニングできるのも特徴のひとつなんだけど、それもせず。今ふり返れば、思考が停止していた。まったく情けない。
ところがその日、5月とはいえ汗をかくくらいの陽気のなかを必要があって歩き回ったあとで、いつもよりも体が「脂っ気」を欲していた。そこで普段ならほとんど見もしないメニューを、すみからすみまでじっくりと眺めてみる。
すると右ページに小さな写真がずらりとならぶ「単品ラーメン」のなかに、「こってりラーメン」(820円)なるメニューを発見。これは今の気分にぴったりなんじゃないかと、頼んでみることにした。
するとなんだか楽しくなってきて、せっかくだからこの、お好みチューニングもしてみるかと思い立つ。そうだな、麺は硬め。醤油や背脂は、こってりは初めてだし普通でいいか。それから、お! 「ネギ多め」なんてできたんだ。ねぎ好きとして、今まで気づいてなかったことが不覚。もちろんお願いします。
さらにさらに、メニューのトッピングのコーナーから「ワンタン」(110円)をプラス。よ~し、なんだかいい感じの組み合わせになった気がするぞ!
で、もちろんビールビールっと......え!?
これまた今までまったく目が行ってなかったんだけど、ビールやサワーと、焼酎やノンアルコールメニューの間に、まるで身を隠すように1行、「梅酒サワー・ドライサワー 210円」との文字がある。ずいぶん安いけど......ソフトドリンクじゃないよなこれ? いや、位置的に見てどう考えても酒のはず。しかし、お酒をこんなに安くする企業努力をしなくたってお客さんは集まるであろう人気チェーンで、このメニューはむしろ不気味ですらあるぞ。とはいえ、これだけ気になってしまったからには頼まないわけにはいかないし。
はたしてドライサワーは、まごうことなきお酒のサワーだった。しかも、ほんのりと柑橘っぽいフレーバーがありつつ、甘ったるくはない、かなり僕好みの。それを、これまた今日初めて存在に気がついた卓上の梅干しをつまみに飲みながら、ラーメンを待つ。いや~、なんだかすでに、来来亭の新しい扉が開きはじめている感じ。
そしてこってりラーメンが届き、テンションがぶち上がる。なんだこれ、いつもの来来亭のラーメンとぜんぜん違うじゃん!
豚の背脂がたっぷり浮かぶのは基本として、そのスープが完全に白濁しており、「こってり」の名に恥じない、本気を感じる見た目だ。
れんげでスープをすくい、全神経を集中してズズズとすする。うわ、し、沁みる~......。濃厚でコク深いこの味は、豚骨だろうか? それでいてしつこさは強すぎないから、もしかしたら王道の鶏ガラとのダブルスープ? バカ舌ゆえ詳細がわからないのが無念だけど、とにかく今日求めていた味にバチーン! とハマり、飲めば飲むほどクセになる。脳からアドレナリンがどんどん出てくるのが、はっきりと自分でわかる。
また、具材の存在感もすごい。無料でこんなにサービスしてくれていいんだろうか? っていう輪切りのねぎが、力強いスープの味わいをさらにブースト。チャーシューも、脂身ちょい多めの切り落としっぽい部位が、「こんなに入ってたっけ?」ってくらいごろごろだ。
そこで、チャーシューとねぎを一部移設し、卓上の辛みそをのせて、勝手に「ねぎチャーシュー小皿」を作成。ピリ辛シャキシャキのチャーシューで、ドライサワーがぐいぐいすすんじゃうな~。
麺もうまいな~。噛むとぱつっと弾けて小麦の香りが広がる、歯切れと喉ごしの良いストレート細麺。表面に多少のざらつきもあるから、濃厚なスープが絡む絡む。
ワンタンは、なかに肉餡が包まれているタイプではなく、ぺらりとした素材そのもの。「な~んだ、そんなのつまんないじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、これを「超幅広の麺」と考えると、メインの細麺との味の違いが楽しめ、なにより、もちぷりの食感が純粋にうまい。しかも、大ぶりのものが6枚も。これまた、次回以降もマストだな。
ラーメンの全体量が1/2ほどになったところで、容赦なくすりおろしにんにくを投入。さらに荒々しく進化したこってりラーメンをつまみに、おかわりのドライサワーをぐびぐび。
さらに、じゅうぶんこってりスープの味わいを堪能したと判断したところで、辛みそも入れちゃえ! 一気にスープが完全別物になってしまうけど、サワーを飲み干すパートナーとしては最高のフィニッシュ!
と、いつも以上に興奮気味に書いてしまったけれど、来来亭のこってりラーメンにドライサワー、かなり本気で、目から鱗の体験だった。
王道のラーメンと二大看板、いやむしろ、こってりをメインにしたっていいくらいなんじゃないの? と個人的には思うものの、それが"知る人ぞ知る"くらいの存在感でメニューにあって、ちょっと人目をはばかるように食べてニヤニヤしているくらいが、やっぱりなんだか楽しいかもしれない。
取材・文・撮影/パリッコ