「最悪の事態」はまさにこれから起こる
現在のアメリカはある意味、基本的自由が国家によって衰退させられている状況とも言えます。ただアメリカに関して言うと、私は学資ローンをとくに心配しています。
長い間、アメリカで経済的に生き抜くということは、「何らかの高等教育を受ける」ということでした。高等教育を受けることで、グローバル化の最悪の影響から逃れることが可能になっていました。
しかし、もちろん、アメリカでは教育機関がますます私立化されています。多くのお金がかかり、大半の学生は銀行からお金を借りて勉強しなければならず、借金を背負っています。
この問題をバイデンが何とかしようとしているのは知っています。しかし、そう簡単に負債を背負わせる動きが止まったり、覆されたりするとは思いません。
もちろん、私は歴史を研究しているので、多少は歴史の知識があります。古代史の知識はあまりありませんが、借金に走ることは――とくに大規模な個人的借金は――借金の奴隷のようなものへと、人々を導く最初の一手であることを知っています。
就職して働き始める前に、個人的な借金を背負ったアメリカの現在の学生は、19世紀の政治思想家たちが、「市民の自由」などと言っていたような状態とは程遠いのです。
これが、私が恐れている、暗い未来の一部です。
私たちの世代にとってはとくにですが、これ以上悪いことが起きると想像するのは難しいことです。
1951年生まれの私は、人生の大半で、生活水準の驚異的な向上を経験してきました。かつては南仏にある私の村から電話をかけるのさえ難しかったころもありましたが、今は携帯電話を持っていて、どこでも誰にでも電話をかけることができます。
市民の積極的な政治参加があったころはまだ、民主主義の時代でした。これはフランスにもイギリスにもアメリカにも当てはまりますが、当時の歴史は同じような傾向がありました。
しかし、グローバル化などによって、産業システムが崩壊していくのを目の当たりにします。そして、物質的な困難を抱えるようになります。
コロナ禍の時期、西洋には、必要な医療品や機械、マスクなどを作ることができないことがわかり、私は本当に驚きました。フランスでは、乳幼児の死亡率がわずかに上昇しましたし、大きな政治的な機能不全があり、警察の取り締まり姿勢は強硬になっています。
アメリカでは状況がもっと悪く、バイデンが当選した後、銃乱射事件や連邦議会議事堂の襲撃事件が起きました。
私たちは、最悪の事態をすでに目の当たりにし、今こそ回復し始めるときだという考えを持っています。しかし、状況はまったくそうなってはいない。私たちにとっての最悪の事態はまだ来ていないのです。
これこそ、私が恐れていることです。最悪の事態についての意識の欠如こそ、恐れるべきです。
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