セロトニンの量とうつの関係
③ セロトニン
セロトニンは、おそらく体内で最も多様な働きをもつ神経伝達物質だ。私たちの思考や行動を制御するだけでなく、消化や腸管運動、呼吸、心血管機能、性的機能といったさまざまな生理的プロセスにもかかわっている。
また、気分や認知能力、怒り、攻撃性、食欲、記憶力、注意力といった、あらゆる行動および心理上のプロセスにも影響を及ぼす。
さらに、セロトニンは幻覚作用とも深い関連がある。幻覚と聞いてあなたが何を思い浮かべたにせよ──幻覚キノコでも、アヤワスカ【ペルーの幻覚剤】でも──そのすべてが脳内のセロトニン受容体と強く結びついてセロトニンを活性化し、意識の変容や幻覚をもたらすのだ。
一方で、気分障害の多くはセロトニンの活動が少なすぎることに関連している。いちばんよくある例が、うつ状態だ。
セロトニンの量が少ないからといって直接うつ状態が引き起こされるわけではないが、セロトニン不足は私たちが情報を認識したり処理したりする方法に変化をもたらす。否定的な思考パターンや無気力、楽しいことも楽しめなくなる精神状態へと誘導してしまうのだ。
セロトニンが適切につくられないと、気分がふさぎこんだり、以前は楽しかったことに興味がもてなくなったり、無駄な心配ばかりするようになる。
さらに、慢性的な疲労を抱える成人にはセロトニン量の低下が見られる研究も、いくつか発表されている。
④ オレキシン
オレキシンはこの5つのなかではいちばんの新参者で、発見されたのは1998年になってからだ。
それ以前は、睡眠と覚醒を制御するものが何か、まだよくわかっていなかった。だがいまでは、このオレキシンこそが、睡眠覚醒サイクルにおいて最も重要な役割を果たすことがわかっている。
ナルコレプシー【発作的に眠ってしまう病気】の原因はオレキシン不足で、おそらく自己免疫発作によってオレキシンをつくり出すニューロンが働かなくなるために起こる、と示す研究結果がある。
また、オレキシンの信号伝達を阻害する薬が不眠症の治療に効果的なことや、オレキシンの信号伝達が目覚めと覚醒状態をもたらすこともわかってきた。
発見されてからの数十年で、オレキシンが感情やエネルギーバランス、依存傾向の制御にも役立つと明らかになっている。
身体活動の低下や肥満は、オレキシン不足に結びついており、オレキシンを注射すると身体活動が自発的に増加する。オレキシンの量が少ないと、動きたいという気持ちがなくなってエネルギー消費が減り、体重増加につながるのだ。
・GABA(γ-アミノ酪酸)
GABAは脳内で最も強力な抑制系神経伝達物質であり、リラックスするのに必要な沈静作用の多くを制御している。
また、ニューロン間の連絡や、認知能力、感情、記憶の制御にも欠かせない。
GABAの量が多いと、集中力が切れることが少なくなり、よりすばやく反応したり判断したりできるようになるという研究結果がある。
さらに、健康な若い成人にGABAを補うと、注意力やタスク切り替え能力が向上したという研究結果もある。
一方で、GABAの量が少ないと、次のような認知機能の衰えにつながるという。
・記憶力の低下
・認知能力の低下(たとえばどうでもいい細かいことにとらわれて、大事なことに集中できなくなるなど)が自分で確認できる
・視空間認識能力の低下
・共感能力の低下
・ストレス耐性の低下、うつ・不安を感じやすくなる傾向
・依存症になりやすくなる傾向
GABAが足りていないと、集中力が落ちたり、不安を感じたり、ストレスに弱くなったり、眠れなくなったりするが、これらすべてが疲労につながっている。
文/アリ・ウィッテン アレックス・リーフ
写真/shutterstock
私たちの体が「疲れを感じる」理由を知っていますか
https://sunmarkweb.com/n/n6c6541554ddb
#1「頭の中にもやがかかったような感じ」激しい慢性疲労は脳の症状が原因かも―ミトコンドリアの機能不全が起こす脳の健康悪化
#2脳が体からの信号を読み間違えると“意図的に疲れた状態”をつくり出してしまう! 誰もが起こす可能性のある「慢性神経炎症」とは?