脳伝達に特に大事な「5物質」

① アセチルコリン
疲労に関連する働きの面でいうと、アセチルコリンは脳が体に「動け」と命じるときに使う神経伝達物質だ。

研究によると、慢性疲労にはこのアセチルコリンの信号伝達の乱れがかかわっていて、とくにアセチルコリン作動系が過活動状態に陥ると、体が信号に対して適切に反応できなくなるため疲労が生じると判明している。

アセチルコリンは体内に広く存在する神経伝達物質の1つで、心筋や血管、骨格筋の筋収縮を制御すると同時に、学習能力と記憶能力を制御するのにも役立っている。

アセチルコリンの出す信号に乱れが生じると、認知機能や心血管関連の健康、身体機能など、広範囲に影響が及ぶ。

たとえば、ドラッグの使用でアセチルコリンの信号伝達が阻害された若者は、認知機能の衰えた老人と同じような長期記憶と作業記憶の低下を示すことがある。

さらに、アセチルコリンの信号伝達が減少すると、脳は酸化ストレスや炎症、外傷といったほかの悪い要因の影響を受けやすくなり、柔軟に対応することができなくなる。

② ドーパミン
ドーパミンはごく小さな分子だが、その働きは大きな意味をもつ。「動機づけ」と「報酬」だ。

私たちがケーキを食べたり、オーガズムに達したり、目標を達成したりといった経験をすると、ドーパミンが放出され、その行為をさらに補強する。ドーパミンは私たちをいい気分にさせ、喜びをもたらした行為をずっと続けさせようとするのだ。

ドーパミンがかかわる例としてよく知られているのは、「依存症」だろう。ドラッグにせよ、食べ物にせよ、なんらかの経験に対しドーパミンが爆発的に放出されて、その経験をもっと求めずにはいられなくなる状態のことだ。

そうした状態に定期的に陥ると、その心地よいドーパミンの報酬を与えてくれる経験が常習化していく。

依存症のマイナス面はきわめて大きい。常習化の行きつく先は耐性の形成だ。最初と同じ快感を得るために、必要な経験の量が徐々に増えていく。ドラッグの使用量が時とともに増えていく傾向があるのは、このためだ。

慢性的疲労や気分の落ちこみの原因は脳の不調にあった。脳伝達に特に大事な「5物質」とは?_2

しかも耐性ができると、ドラッグの使用や快感を引き起こす行為をやめたときにドーパミンが出なくなり、動揺やイライラ、集中力の欠如、快感をもたらすもののことしか考えられなくなる、といった離脱症状が表れる。

ドーパミン系の機能を正常に働かせる必要があるのは、ドーパミンの量が少ないと無気力や意欲喪失、気分の浮き沈み、依存傾向などにつながる可能性があるからだ。

もしあなたがどうしてもやめられない悪い習慣に苦しんでいるなら、ドーパミン系の働きを正常にすれば、「『脂肪』を燃やす」(3章)や「『糖』を食べて疲れない」(5章)で説明したような、健康的な習慣を身につけやすくなるはずだ。

また、構造的および機能的神経画像研究の結果を見ても、慢性疲労にはドーパミン調節異常が大きくかかわっていることがわかる。

実際、慢性的な疲労を訴える人にドーパミン模倣薬を与えると、ドーパミンのシグナル伝達が大幅に増加し、疲労の低減につながる。