飲酒量や食事量の調査で大量発生する「嘘つき」たち
飲酒量については、回答者の答えと実際の酒類の販売量が一致していない。回答者の答えから推計された総飲酒量は、酒類の販売量の4割から6割にすぎない。
確かに金曜の夜にはパブの床に大量に酒がこぼされているのかもしれないが、それでもこの数字が示しているのは、標本調査の回答者は自身の飲酒量を大幅に少なく答えているということだ。
その原因の1つは、飲酒に関する標本調査で通常使われている「ユニット」という数え方にある。読者のみなさんは、英国の標準的なグラスワイン1杯の量(175ミリリットル)が「2.1ユニット」であることをごぞんじだろうか。
こういった数字はなんとなく覚えてはいても、いざアンケートに記入するとなると、「グラス1杯分が1ユニット」と大まかに計算してしまうものだ。おまけに、各種の酒のグラス1杯分のユニット数を示したうえで飲酒量を尋ねても、実際の量より少なく答える回答者も多い。
これと同じことは、食事の量を記録するよう依頼した場合にも起こりがちだ。一人前の食事の量は飲酒量のユニットに相当するような標準的な単位がないため、各自が抱いている一人前の感覚はそれぞれ相当に異なっている可能性が高い。
ただし、それより大きな理由は、飲みすぎと同じく食べすぎにもマイナスイメージがあるので、本人が意識しているかどうかにかかわらず、回答者は自分の食事量を少なめに記入する傾向があることだ。
とある米国の研究に、肥満で体重を減らしたい被験者に対して、食事量を1日1200カロリーに抑えるよう指示したものがある。一部の被験者は、この食事量を守っていたと主張したにもかかわらず、体重が少しも減っていなかった。
結局、彼ら自身による食事量の計算が、実際より常に少なかったこと判明したのだった。なかには、食事量の目算が実際の量の半分程度だった被験者もいた。同様に、運動量も記録するよう指示された被験者は、実際より多く運動したと申告し、なかには申告した運動量が実際の運動量の倍だった人もいた。
被験者たちが(おそらく無意識に)噓をついていることを研究者が把握できたのは、調査期間を通じて、食事量や運動量の記録とは別に、「二重標識水法」という科学的手法を用いた検査も行っていたからだ。これは、特別につくられた水を被験者に飲ませ、一定期間後の排出量を測定することによって、各自のエネルギー代謝を正確に推定できるという評価法だ。
2018年に、英国国家統計局も同様の手法で新たに研究を行った。そのときの被験者は、英国の「全国食事栄養調査」の回答者のなかから改めて抽出された人々(副標本)だった。その結果、被験者の平均カロリー摂取量は、彼らが申告した食事量よりおおむね3割増しだったことがわかった。なかには、実際より7割も少なく申告する「噓つき」もいた。