マクドナルドは共感60点の場所だ

さらに「60点の共感=エモ」説で考えたときに、マクドナルドほど、「エモ」を起こしやすい場所はないように思える。

マクドナルドは現在、全国に3000店舗以上の店がある。1971年、銀座に一号店を構えてから、その規模は全国に拡大。日本中の多くの人が利用した記憶があるはずだ。つまり、マクドナルドはある程度、日本の人々にとっての共通する記憶になっている。

日本マクドナルド一号店は銀座にオープンした 写真/共同通信
日本マクドナルド一号店は銀座にオープンした 写真/共同通信

しかし、当然のことだが各々がマクドナルドで経験してきたことはまったく異なるはずだ。誰と行ったか、何を食べたか、どんな場所にあったか……それらはすべて違っていて、だからこそ、そこには「適度な共通記憶」が流れている。マクドナルド自体が「エモ」な場所なのだ。

だからこそ、「エモ」を押し出すマクドナルドの戦略は、ある意味でマックらしさを活かしたものだといえる。

同時に、だからこそ近年のCMには、これほどまでに強い賛否両論が起こったのではないか。「エモ」が60点の共感ならば、40点分は共感できない部分だということだ。例えば、「夕方5時からのポテナゲ」CMでいえば、「夕暮れ時、3人家族でマクドナルドを食べる」というシチュエーションは、確かに共感できない部分も多い。

実際、批判の声に多くある「普通の家族を正当化している」というのは、まさに、このCMに共感できない層がいることを表している。その40点分の共感できない部分が、昨今のポリティカル・コレクトネス的な反応と相まって増幅されたのだ。

賛否両論は「エモ」マーケティングが成功したことの証

しかし、そのように同CMを批判する人も、「マクドナルドはこうではなかった、自分はマックをこういう風に使ってきた」と“自分なりのマクドナルド論”を語っている。マクドナルドを批判しているようでいて、実は、SNS上での「批判」を通して、むしろマクドナルドの宣伝をしている。「エモ」が生み出すコミュニケーションに参加してしまっているというわけだ。

全世界5000店舗目のマクドナルド江の島店。マクドナルドが増えれば増えるほど「適度な共通記憶」は広がっていく(著者提供)
全世界5000店舗目のマクドナルド江の島店。マクドナルドが増えれば増えるほど「適度な共通記憶」は広がっていく(著者提供)
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実際、これらのCMの炎上でマクドナルドが営業利益を落とした、というデータはないし、むしろ話題性を生み出したことでいえば、マーケティング的には成功だったといえるだろう。つまり、批判する人も、マクドナルドの戦略に取り込まれている。

マクドナルドに人が集まる理由は、その商品が安いからだ、という論調がある。たしかにそれは間違いではない。しかし、その商品が値上がりを続ける今、もしかすると、マクドナルドが今後目指すべき姿は、「エモ」な場所を押し出しつつ、ある種の賛否両論を巻き起こし続けることなのかもしれない。

そして、「炎上」が日常茶飯事になった現在、そのように「炎上上等」ともいえる態度で、むしろその炎上までをもハングリーにマーケティングに取り込んでいく姿勢は、今後のマーケティングやPR戦略に大きな参考になるだろう。

文/谷頭和希