平成バーガーでは80年代~90年代の名曲を立て続けに起用

また、最近のマックが押し出す「平成バーガー」の復刻にあたっても同様で、「平成レトロバーガー」の宣伝CMとして流されたPUFFYの『アジアの純真』をもじった「アジアのジューシー」はいくつかのメディアで「中途半端なオマージュ」などといった表現で否定的に報じられ、炎上に近い騒動になった。

これだけでなく、最近の「平成バーガー」関連のCMでは、80年代〜90年代の名曲が使われていることが、ある種の議論を呼んでいるようだ。

CM曲はPUFFYの『アジアの純真』
CM曲はtrfの『survival dAnce 〜no no cry more〜』

これらのCMはいずれも「エモい」感情を刺激するものとして受容されているが、同時に毎回大きな賛否両論(ときには炎上まがいのことも起こっている)を引き起こしている。その中には感情的な批判といえるのもあって、その反応をさまざま見てみるとおもしろい。

「エモ」は「60点の共感」でコミュニケーションを生み出す

一方で、私はマクドナルドが「エモ」にフォーカスを当てることは、意外と合理的だと思っている。

今瀧健登氏の『エモ消費 世代を超えてヒットするルール』では、この多義的な「エモ」という言葉について、興味深い説明がなされている。彼が言うには「エモ」とは「その対象に60点の共感を感じるときに発生する」というのだ。

今瀧健登『エモ消費 世代を超えてヒットするルール』(2023年、クロスメディア・パブリッシング)
今瀧健登『エモ消費 世代を超えてヒットするルール』(2023年、クロスメディア・パブリッシング)

「エモ」という言葉でSNSの分析を行なった、メトロアドエージェンシーの塩見ありさ氏は、Instagramの投稿で「青春」という言葉と共に「エモ」が使われていることを発見した(『“エモい”を解き明かす~文脈理解と物語構築の重要性~』)。

すべての人が経験しているけれども、人によってまったくその姿が違うのが「青春時代」である。だからこそ、その言葉で人はそれぞれ異なる自分自身の「青春」を思い浮かべるから、その人独特の感情を抱く。似ているけど人によって違う思い出。「適度な共通記憶」とでもいおうか。

また『エモ消費』の今瀧は、「60点の共感」はコミュニケーションを生み出す、とも指摘している。そこそこの共感が発生するから、その対象について自分自身の思い出を語りたくなり、そこにコミュニケーションが発生するのだ。そして、SNS時代において、コミュニケーションは拡散を起こす。

この意味で、「エモ」を押し出すことは、マーケティング的にも合理性がある。