「何も悪くない父や母、妹と関係があるのでしょうか」
被告が好意を寄せていた長女の供述調書では、交際を迫られ困惑していた様子が浮き彫りになった。事件の約2週間前の9月30日午後1時ごろ、高校の駐輪場で被告に呼び止められ、ネックレスをもらって告白された。「よく知らない人と付き合うのはどうなのか」と思い、断るために翌日に教室で話をした。やんわり断ったが食事に誘われ、10月7日に食事をしたが、「ぐいぐい来る」「ペースが合わない」という印象を持った。翌8日に「付き合えない」とメッセージを送り、LINEをブロックした。被告は事件前日の11日に学校を欠席、「皆勤だったはずなのに休んでいたので驚いた」とし、事件当日を迎えた。
長女は論告前の最後の公判では法廷とモニターで繋いだ「ビデオリンク方式」での意見陳述も行った。長女は「世界一の父、母、妹を事件に巻き込んでしまった。どう償えばいいか、答えが出ません」と自らを責め、謝罪の言葉がない被告に対して「不思議でならない。(被告の)生い立ちを聞きましたが、何も悪くない父や母、妹と関係があるのでしょうか」と言い切った。
事件で負傷し、不眠症に苦しむようになった妹について「元の妹に戻ってほしい。私の望みはそれだけです」とし、被告への処罰感情を問われると「怖いから、言いません。裁判官、裁判員の皆様、妹の心と体を守ってください」と訴えた。
一方の被告側は殺人未遂罪に問われた次女へのナタ攻撃について、殺意を否定。犯行全般についても心神耗弱を主張、死刑判決回避を試みていた。
第14回公判では検察側が遠藤被告の供述調書を読み上げ、事件直後は「本当に申し訳ない」と被害者に対する謝罪を口にしていたことについて「罪を軽くするためにウソをついていた。正直、そこまでの気持ちは持っていない。罪を軽くする気がなくなったので本当のことを話します」と、供述内容を変更したことを述べた。さらに、事件について「大きく3点ほどウソをついていた。一家を襲う際の計画や動機、凶器、次女への攻撃の3点で、ほかに、放火後の行動でもウソをついていた」と述べていたことを明らかにした。
続く第15回公判では、鑑定留置時に精神鑑定をした山梨県立北病院の宮田量治院長が証人尋問に立ち、被告には精神的な「病気」はないものの、行為障害や愛着障害、複雑性PTSDといった精神「障害」があると証言。その背景として、夫婦げんかが激しい家庭で育ち、父から体罰を受けてきた反動から弱いものへの攻撃性が芽生えたと指摘。幼いころから昆虫を殺したり、飼い犬を叩いて虐待したりしていたことを挙げ、「この攻撃性が爆発した」と事件に繋がったことを分析した。