「岸田さんは最も邪魔だった勢力を排除することができた」
「岸田さんの思い通りの展開なんじゃないですか」
こう苦笑いするのは、政界事情に精通する与党のあるベテラン秘書である。
「今回の事件が『岸田政権を揺るがす』という人もいますが、とんでもない。岸田さんは政権を運営する上で最も邪魔だった勢力を排除することができた。厄介払いができたというのは、言うまでもなく、安倍派のことです」
総勢99人が所属する自民党最大派閥の安倍派は、岸田首相にとって政権運営のカギを握る勢力だった。実際に「数は力」とばかりに同派は政権発足当初から影響力を発揮。安倍晋三元首相亡き後は結束力に陰りが見えたものの、閣僚や党役員の顔ぶれを見れば、首相ですらその存在を無視できないのは一目瞭然だった。
象徴的だったのは、「五人衆」と呼ばれた安倍派幹部の処遇だ。
岸田首相は2021年10月の第1次政権を皮切りに、2021年11月、2022年8月、2023年9月とこれまでに3度組閣しているが、松野博一氏は一貫して官房長官を務め続けた。西村康稔氏は要職の経産大臣を務め、萩生田光一氏は党内で各政策を議論する部会をまとめる政調会長の任に。世耕弘成、高木毅両氏もそれぞれ参院幹事長、選対委員長といずれも重要なポストを割り当てられていた。
だが、そんな彼らのキャリアが暗転したのが、件の「政治資金」を巡る疑惑だった。
「『特捜部が派閥のカネを洗っている』という噂が永田町に一気に広がったのが昨年11月末ごろ。当初から安倍派の金額が突出しているといわれていましたが、捜査対象になっている具体的な名前が出回り出したのは12月に入ってからでした」(全国紙政治部記者)
派閥から課されるパーティー券の販売ノルマの超過分を、議員側に戻す資金の環流が「キックバック」として報じられ、党全体に危機感が広がった。パーティー券購入者のうち、個人は5万円、団体は20万円以下の購入者は無記名とすることが可能になるなど、政治資金規正法の不透明な実態が明らかになったからだ。