「無縁仏」になってしまうケースが圧倒的に多い

少しすいたクリニックに戻ると本田徹医師が本日最後の患者を診察していた。

本田医師は山友会クリニックのボランティア医師のひとり。国際保健NGOシェア代表理事でもあり、常勤の浅草病院(当時)の勤務休みの日に診察に来てくれている。

ここでは年間300人ほどが受診。「診療も処方薬も完全無料」という日本でも珍しい形態でボランティア医師がまわりもちしている。保険証がなくとも偽名でも診療は受けられ、無料のクスリはおもに個人の寄付でまかなっている。

山友会では無料診療につなげるためにフードバンク(セカンドハーベスト・ジャパン)から提供を受けた食品を使っての炊き出しやボランティア医師と一緒に隅田川沿いのブルーテントを回るアウトリーチの活動にも力をいれている。路上で生活している人を支援につなげるための入り口が、炊き出しやアウトリーチなのだ。家がないことも問題だが、「おじさんたちのいちばんの問題は『孤独』と『孤立』、つまり、つながりがないこと」だとルボさんと油井さんは言う。

「人は孤立死、孤独死をとても辛いものと強く思っているものなのだ」〝血縁〟ではなく〝つながり〟から生まれたホームレスの共同墓〈椎名誠の死生観〉_2
写真はイメージです

ホームレス関係の資料を集めていくとだんだん迷路のようなところにはまりこんでいく。まず実態を把握したいのだがもともと住民票など登録がない人が多いわけだし、それを支援する活動、排除する権力などが入り乱れ、最終的にはホームレスそのものを生み出す社会性などが巨大にひろがっていき分析や思考の行き場を失う。

求めたいテーマにむかっていっても簡単に片づけられないいくつもの問題にぶつかり、どこから取材し考えていけばいいのかわからなくなってしまう。

もともとホームレスのエンディングには確固たるデータがない。いろいろな取材をへて知っていったことは、支援組織や保健所が、死んでいるホームレスや元ホームレスを偶発的に発見することを憂慮している、ということだ。

彼らの多くはその本人を証明する書類など持たないケースが多い。さらに親兄弟や親戚などとの連絡を自分で強引に断って(断たれて)いる場合が多い。したがって死んだあとは「無縁仏」になってしまうケースが圧倒的に多いのだ。いろいろな事例を見ていくと、なにかで血縁筋がわかっても、連絡を受けた側がその「死」を受け止めない、具体的には「葬礼拒否」や「遺骨の引き取り拒否」になることも多いという。