コロナ禍前は年間200本のライブで全国を回る日々
――12月にリリースしたばかりの『traditional humming』は、15年ぶりのフルアルバムだそうですが、どういう思いで作られた作品ですか?
フルアルバムはミュージシャンにとって、残すべき大事な引き出しだと思っているので、思いは強いです。15年間というと、長男が生まれてからの期間なんですよ。
誰かを支えて生きていくということに初めて向き合いましたし、その間に、事務所をやめて自分で活動を始めたりして、いろいろなことを経験しました。
サポートギターをやってみたり、コンペに曲を出してみたりもしたけど、僕はやっぱり、ツアーを中心に音楽活動をしていこうと決めて。そして本格的にツアーに回り始めたのが、15年前でした。
――30代を経て40代になった今、本数としてはもっともツアーを回っているんですか?
40代に入ってすぐコロナ禍になったので、40代の前半はほとんど回れないまま終わってしまったんですけど、それまでは年間200本以上はライブをしていました。ずっとツアーばかりで、なかなかアルバムを作ることに気持ちが回らず、これだけ経ってしまったという感じです(笑)。
ただ、ツアーに行くと環境も変わるし、喫茶店や居酒屋でライブをすることもあって。場所によって音の響き方が変わるのが、すごく勉強になるんですね。声の出し方も含めて、野球で言うと、どうやって塁に出るかという方法論がたくさん身に付きました。
今回、アルバムのレコーディングをしてみて、ツアーを通じて表現の引き出しが増えたと痛感しましたね。
自分が続けてきた音楽は鼻歌。僕の一部でしかない
――『traditional humming』というタイトルや収録曲からは、岩瀬さんの表現の原点に回帰した作品のように感じました。
原点とまでは考えなかったのですが、とてもフラットに作れたと思います。もしかしたら、20歳のころの19の匂いも感じてもらえるのかもしれませんし。
ただ、hummingは、鼻歌なんですよね。自分が25年間続けてきたことは鼻歌程度だという思いもあるんです。諦めではなくて、音楽は価値を付けるようなものではないと思っていて。もちろん音楽家としてのプライドは持っていますが、音楽はただ、僕という多面体の一部なんですよね。
――アルバムの中の“君は行け”という曲は、故郷を思ったときの孤独感や、ご自身が両親のもとを旅立った過去についても歌っていますが、これは、お子さんに向けて書かれた曲ですよね。
そうですね。子どもが成人して、どこかに旅立つときのことを想像しながら書きました。