MMTは実際にインフレを引き起こした

いまのアメリカの状況を見ていると、多くの人がMMTに対して抱いていた危惧が、まさにそのとおりの形で現実に生じてしまったことが分かる。

新型コロナウイルスに対応するため財政支出を拡大したのは、日本に限ったことではない。アメリカでも大規模な財政支出拡大策が取られた。そして、大量の国債発行を容易にするために、金融緩和に踏み切ったのである。つまり、財政拡大と金融緩和を同時に、しかも大規模に行った。まさに、MMTが推奨する政策が実現したのである。

そのために、コロナからの回復が見通せる段階になって経済活動が復活すると、賃金が上昇し、それが引き金となってインフレを引き起こしてしまったのだ。

もちろん、現在のインフレは、これだけが原因ではない。2022年の2月以降、ロシアのウクライナ侵攻によって資源や農産物が値上がりしたことも、大きな原因だ。これによって、昨年の秋以降進行していた物価上昇が加速することになった。

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日本ではインフレが起きなかった

それに対して、日本では2022年までは、ホームメイド・インフレは起きなかった。

日本でもこの数年間で財政支出が拡大した。そして同時に、金融緩和政策も継続されている。それにもかかわらずインフレが起きなかったのはなぜか?

もちろん、いま日本では物価が上がっている。ただし、少なくとも2022年までについては、国内の要因によって起きたものではない。第1には、アメリカのインフレのため、第2にはウクライナ戦争で資源価格が高騰したためだ。その結果、輸入物価が上がったからだ。つまり、日本で生じた物価上昇は、輸入されたインフレであって、直接の原因は、海外にある。

日本で大量の国債発行がインフレにつながらなかった理由は2つ考えられる。

第1は、財政支出が需要を増大させなかったことだ。コロナ対策で最大のものは定額給付金だったが、これは消費支出を増やさず、貯金を増やすだけの結果に終わった。

第2に、日本企業の生産性が向上しない状況が続いているため、拡大策を行っても賃金が上昇せず、需要が拡大しなかったことがある。