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物価上昇が続くこれだけの理由

デフレは30年近く続いてきましたから、みなさんの中には「インフレだと騒ぐ声もあるけれど、物価上昇はいっときのことで、本格的なインフレにはならないのでは?」と思っている方もいるかもしれません。

たしかに物価が一方的に上がり続けるとは限りませんが、私は大きな時代の流れとして日本がデフレからインフレに移っており、物価上昇基調は継続すると考えています。

図7をご覧ください。これは日本の消費者物価指数(総合)の推移を示したものです。

今の50代が10代の頃に一度だけ経験したインフレ到来…物価の上昇に、賃金も金利も年金も一切追いつかない、日本国民が貧乏になる未来_1
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すでに2022年12月の段階で、生鮮食品を除く総合指数が4.0%(前年同月比)の上昇となりました。

このような物価の動きは、41年ぶりですが、つまり、現在50代の方が10歳くらいのころ以来だということです。

私自身も41年前は16歳でしたから、大人になってからはみなさんと同様、ずっとデフレ時代を生きてきました。

つまり、いまの日本は多くの人にとって「未経験のゾーン」に入ったといっていいのです。このような物価の上昇が今後も続くと考えられる理由の1つは、人手不足です。

日本は少子高齢化が進み、最近はさまざまな業界で深刻な人手不足が生じているというニュースを目にすることが多くなりました。

絶対的に人手が足りない中で人材を確保しようとすれば、企業側はそれなりに賃金を上げていかざるを得ません。これは企業にとっては重いコストとなり、企業が提供するさまざまな物やサービスの価格上昇につながります。

地政学上の問題も、物価上昇に直結します。

東西冷戦の時代から米中新冷戦の時代へと世界の対立構造が変化する中、「産業のコメ」とも呼ばれる半導体の製造拠点を中国から移転させる動きが加速しています。

経済安全保障上は必要な対応ですが、これがさまざまな製品のコストアップ要因になることは、間違いありません。

気候変動も、物価上昇の要因となります。

日本では気候変動の直接的な被害を実感することはまだ少ないかもしれませんが、欧米を中心に、世界ではすでに気候変動が引き起こしていると見られる大規模な災害が多発しています。グローバルな視点で見ると、気候変動に対する危機感は切迫したものだといっていいでしょう。

もちろん再生可能エネルギーへのシフトは一朝一夕には進みませんが、世界各国が二酸化炭素排出削減を目指すことは必須となっています。

そしてこれは、化石燃料の長期的な需要減少が避けられないことを意味します。

化石燃料の生産に新たな設備投資をしようという企業は多くなく、このような事情を背景として、化石燃料の価格上昇は中長期的に続くことになりそうです。

物価上昇の根拠をいくつかご紹介しましたが、こうしたさまざまな構造的要因を考え合わせると、私はそう簡単にデフレ基調に戻ることはないのではないかと思います。