“センキョジャンキー”へ候補者からのお礼

畠山 前田さんは?

前田 十数年フリーでやってきて、7、8年前から会社(大島新監督が立ち上げたネツゲン)に所属しています。フリーのときはもう本当にお金の心配をし、誰にも自分は求められていないと実感していましたから。

畠山 それは僕も選挙の取材をしていて、いつも思っています。

前田 これは果たして世の中の役に立っているのかという迷いを畠山さんは、どうやってクリアされてきたんですか?

畠山 「続けなきゃ」というよりも、「続けたい」なんですよね。見たことのないものを見たい。そこにワクワクする劇場があるとわかっているのに行けないのは悔しいので、行ってしまう。

前田 では、取材中に何度も「もうやめたい」と口にされていたのは?

畠山 交通費や宿泊費などの請求で、カードが止まる。困ったなぁと(笑)。取材に行けば赤字になる。だけど、やめられない。「センキョジャンキー」なんですね。依存というか、選挙の現場を見ない生活は考えられないというぐらいにおもしろさを知ってしまっている。

前田 やめられない自分がいる、と(笑)。

畠山 だからお金が潤沢にありさえすれば、原稿は書かずに取材だけ行って「やったあ!!」なんですよね。

「取材をすればするほど赤字になる」泡沫候補者を取材しつづけ25年。自称“選挙ジャンキーライター”が廃業宣言!? <映画『NO選挙,NO LIFE』秘話>_3
ポレポレ東中野のロビーにて(撮影/朝山実)
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前田 それだと取材は何のために?

畠山 もちろん、伝えるということが目的ではあります。何度も「やめたい」と言っていたのは、そういう負の連鎖を断ち切りたい、何とか続けられる方法を編み出せないかとずっと考えてきたからなんです。でも、答えが出ないままで。

前田 私は、「選挙取材に需要がない」と言われている畠山さんと、畠山さんが追いかける「独立系候補」の人たちが重なると思って見ていました。彼らも誰からも出てくれと頼まれたわけではないのに出ている。

畠山 候補者のみなさんは、選挙に出たことで何かを得られていると思いますよ。だって、数字に出るじゃないですか。

前田 参院選の比例区に立候補するのに300万円を供託し、街に立って演説しても、誰一人立ち止まるわけでもないのに?

畠山 それでも、名前を書いた人が3000人もいたりする。それ、ちょっとドキドキしませんか? まったく知らない人に自分の名前を書かれるんですよ。

前田 そこで回収されるんですか?

畠山 僕が取材に行くことで、候補の人たちに火をつけているところは多分にあるとは思いますけど。みなさんイキイキされていますから。見に行っていて、楽しいし。笑わしてもらえるし。冷笑というのではなくて、爆笑。ご本人を前にしてワッハッハと笑っても、「よかったですか」と喜ばれる。

前田 私が印象に残ったのは、畠山さんが候補者の人たちにお礼を言われている場面です。「あなたしか話を聞いてくれない」「会えて、よかった」と。

畠山 「探していたんだ」とか(笑)。

前田 そうそう(笑)。

(後編に続く)

構成/朝山実

『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、東京・ポレポレ東中野ほか全国ロードショー公開中

「取材をすればするほど赤字になる」泡沫候補者を取材しつづけ25年。自称“選挙ジャンキーライター”が廃業宣言!? <映画『NO選挙,NO LIFE』秘話>_4

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コロナ時代の選挙漫遊記
畠山 理仁
「取材をすればするほど赤字になる」泡沫候補者を取材しつづけ25年。自称“選挙ジャンキーライター”が廃業宣言!? <映画『NO選挙,NO LIFE』秘話>_5
2021年10月5日発売
1,760円(税込)
四六判/304ページ
ISBN:978-4-08-788067-0
選挙取材歴20年以上! 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した著者による”楽しくてタメになる”選挙エッセイ。

2020年3月の熊本県知事選挙から2021年8月の横浜市長選挙まで、新型コロナウイルス禍に行われた全国15の選挙を、著者ならではの信念と視点をもって丹念に取材した現地ルポ。「NHKが出口調査をしない」「エア・ハイタッチ」「幻の選挙カー」など、コロナ禍だから生まれた選挙ワードから、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」「ふたりの田中けん」など、多彩すぎる候補者たちも多数登場! 

<掲載される選挙一覧>
熊本県知事選挙/衆議院静岡4区補欠選挙/東京都知事選挙/鹿児島県知事選挙/富山県知事選挙/大阪市住民投票/古河市長選挙/戸田市議会議員選挙/千葉県知事選挙/名古屋市長選挙/参議院広島県選出議員再選挙/静岡県知事選挙/東京都議会議員選挙/兵庫県知事選挙/横浜市長選挙
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黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い
畠山 理仁
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924円(税込)
文庫判/376ページ
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落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!
選挙の魔力に取り憑かれた泡沫候補(=無頼系独立候補)たちの「独自の戦い」を追い続けた20年間の記録。
候補者全員にドラマがある。各々が熱い思いで工夫をこらし、独自の選挙を戦っている。何度選挙に敗れても、また新たな戦いに挑む底抜けに明るい候補者たち。そんな彼・彼女らの人生を追いかけた記録である。

2017年 第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作

【目次】
第一章/今、日本で最も有名な「無頼系独立候補」、スマイル党総裁・マック赤坂への10年に及ぶ密着取材報告。
第二章/公職選挙法の問題、大手メディアの姿勢など、〝平等"な選挙が行なわれない理由と、それに対して著者が実践したアイデアとは。
第三章/2016年東京都知事選挙における「主要3候補以外の18候補」の戦いをレポート。

【選考委員、大絶賛! 】
キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの、何と個性的で、ひたむきで、そして人間的なことか。――姜尚中氏(政治学者)
民主主義とメディアについて、今までとは別の観点で考えさせられる。何より、作品として実に面白い。――田中優子氏(法政大学総長)
ただただ、人であることの愛おしさと愚かさを描いた人間讃歌である。――藤沢 周氏(作家・法政大学教授)
著者の差し出した時代を映す「鏡」に、思わず身が引き締まる。――茂木健一郎氏(脳科学者)
日本の選挙報道が、まったくフェアではないことは同感。変えるべきとの意見も賛成。――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)
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