2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「漫画記事ベスト10」第1位、漫画『「子供を殺してください」という親たち』の原作者・押川剛氏に、社会の闇をリアルに描いた制作背景を聞いたインタビュー記事だ。(初公開日:2023年3月2日。記事は公開日の状況。ご注意ください)
#1 【漫画あり】毎日全裸でバットを振り、飼い猫まで殺した男と向き合う.
飯能親子3人一家殺害事件のような事件が起きそうな地域は…
――場所や名前などの配慮はしておられますが、本作はすべて実話をもとにした“オールリアル”とのことです。特に、押川さんの印象に残っている事例はありますか。
4巻に出てくる黒澤美佐子(仮名)のケースはすごかったですね。長年の引きこもりで、ドアを開けたら部屋一面にティッシュのゴミが山積みになっていて。
移送のときに救急隊、消防隊、役所、警察も立ち会ったんですが「これはもう押川さんのやる分野じゃない」っていうんですよ。汚物がマンションの下階の壁にまで染み出している状況で、役所の衛生課が出てきましたから。
しかも、そのことを依頼者である親がすべて隠していたんです。ウジもわいているし、臭いもひどい。それを、私たちに片付けろと言っていたんです。
――最後にその父親から「訴える」と言われていましたね。
あれも事実です。地方のちょっとした名家だったんですが、「大ごとにしやがって」と殴られたあげく、その父親の教え子だという弁護士にも脅されて。まあ、それも漫画の通りにはね返しましたが、費用も半金しか支払われなかったし、まさに「最悪のケース」でした。
――社会情勢や時代によって依頼の傾向に変化はあるのでしょうか。
私がこの仕事を始めた30年ほど前に比べたら、精神疾患に限らず、病気や障害に対する社会の理解が進んでいて、当事者が声を上げられる土壌もできてきています。
ただし、先ほど(#1インタビュー)も言ったように、声を上げられる当事者というのは、私からすれば病識がある「優秀」な患者さんです。病状が重い、病識がない、依存症やパーソナリティ障害のように、治療に時間のかかる対応困難な方については状況が変わっていないどころか、私宅監置が行われていた昔にかえっていると思います。
精神保健福祉法が改正され、厚労省は「入院医療中心から地域生活中心へ」と舵を切りました。実態は、地域に責任を負わせることで「事件待ち」の状況にして、自分たちとは関係ないということにしてしまったんですね。
病院も匙を投げる対応困難な患者さんを、地域で受け入れられるはずがなく、当事者や家族は孤立しています。事件化も顕著で、昨年1月にも神奈川県・川崎市麻生区の自宅で、30代の長男を監禁して死亡させたとして両親と妹が逮捕される事件がありました。報道では、長男は精神疾患の疑いがあり、全裸で外出して警察に保護されたこともありましたが、医療にはつながっていませんでした。
先日、埼玉県・飯能市で起きた親子3人殺害事件もまさにそうで、これからああいう事件が多発する可能性のある地域はわかっているんです。関東では圧倒的に埼玉と神奈川です。というのも、それらの自治体は、対応困難な精神疾患の方を医療につなぐことをほぼ放棄していて、もう診られる医者や医療従事者がいないんです。