増加する獣害と減少する猟師

鹿の解体をしていると、光雄さんの携帯電話が鳴った。

グループ最年少の27歳の晢太と30代で猟歴9年目の塚ちゃんが上足寄町の林道でヒグマの親子に遭遇して撃ったという。12番のハーフライフルを使って200mの距離で獲物を仕留めるベテランの域に達している晢太だが、初めて対峙したヒグマを仕留めそこねて、深手を与えたまま逃がしてしまったという。

「撃たれているなら30分から1時間ほどしたら、どこかに倒れていると思うから血痕や足跡をたどって山に登って探してみろ。倒れていても襲ってくるかもしれないから、いつでも撃てるように銃を腰だめにして気をつけて探せよ」

そう晢太にアドバイスをする光雄さん。我々は素早く鹿の解体を終わらせて肉を車に乗せるとヒグマを撃ったという現場に急行した。

40分後に上足寄町の林道の入り口で晢太と塚ちゃんに合流し、そこから5分ほどで現場に到着した。晢太の弾は親熊の腹を撃ち抜き、塚ちゃんは1発で木によじ登った子グマを倒したという。親熊は腹を撃ち抜かれながらも山を駆け上がったそうだ。光雄さんと私は山の麓から捜索する。見晴らしがいいとはいえ、手負いのヒグマを探すというのは恐ろしい。

しばらくすると上のほうから「見つけた!」という晢太の声が聞こえた。私は声のほうに向かって走って行くと山の中腹に大きな黒いヒグマが横たわっていた。初めてヒグマを仕留めた興奮と恐怖をないまぜに顔に浮かべた晢太が腰だめで銃を構える。恐る恐る倒れた熊に近づくとまだ息があり手足を動かしている。人間が近づいてきた気配を感じるとさらに手足をばたつかせて最後の抵抗を見せている。自然に生きるヒグマをこの距離で見ると、なんともいえない恐怖心に襲われる。

光雄さんが晢太に止め刺しを命じ急所に弾を撃ち込む。至近距離で12番の3インチのマグナム弾を急所に受けても、まだ息が絶えないことに驚いた。ヒグマの生命力の強さには驚かされる。光雄さんが話していた通り、倒れていても絶対に油断してはいけないということを実感した。

エゾヒグマと哲太さん
エゾヒグマと哲太さん

ヒグマを仕留めた2日後、ハンター仲間が集まって獲ったヒグマを料理して食べることになった。自然の中で育った野生の鳥獣の肉を仕留めて初めて食べたときの感動を家族や友人にも食べさせてあげたい。そんな理由で狩猟を始めて20年が経った。そのなかでも、今まで食べたあらゆる肉の中でヒグマの肉が一番美味しい。口に入れた肉を噛みしめる度にヒグマに怯えて山を探したこと、弾が当たった瞬間を思い出す。野生の恵を仲間と共に美味しくいただけることに感謝する。

熊肉は臭みがあると思われているが、適切に処理すれば臭みはまったくない
熊肉は臭みがあると思われているが、適切に処理すれば臭みはまったくない
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取材で地方に行くたびに地元の人たちから熊、鹿、猪による獣害に悩まされているという声を多く聞く。ハンターが高齢化し、年々その数は減少しているのだ。コロナ禍、ウクライナ戦争、円安の影響で弾薬の値段が高騰していることもハンター減少に拍車をかけている。これから狩猟を始めたいと思っている若者にとっても状況はなかなか厳しい。

狩猟という自然との対峙に命の大切さを感じる身としては一抹の寂しさを感じる。

取材・撮影・文/横田徹