クラス全員にSNSで包丁の写真を送りつけ…
CASE2:駆け落ち事件
高校2年の宇野結衣(仮名)は、同級生の男子生徒と付き合っていた。2人とも発達障害のある者同士で、たびたび小さな問題を起こしていた。
ある日、2人は話し合って、「駆け落ちしよう」と決めた。駆け落ちしなければならない理由があるわけではなかったが、2人の間ではそう決まったらしい。
放課後、2人は新幹線の停まる県内の駅まで行ったものの、電車賃がなくチケットを買うことができなかった。渋々家に戻った後、結衣はSNSでクラスメイト全員に包丁の写真と一緒に「金をよこせ」というメッセージを送った。そうすれば、クラスメイトが駆け落ちに必要な金をくれると思ったらしい。
翌日、学校にこのことが発覚。恐喝事件として警察まで駆けつける事態となり、結衣のみが退学処分になった。
この2件のトラブルからわかるように、これら生徒たちが示す思考の飛躍はなかなか想像しづらいものがある。高校の教員がいくら真摯に生徒に向き合っても、生徒が消毒用アルコールを飲む、好きな男子の名前を校舎や車に書きまくる、駆け落ちのための新幹線代をSNSを使って恐喝で集めようとする、といったことは理解できないだろう。しかも、生徒本人に罪悪感がない。これが教育困難校の現状なのだ。
前提として念頭に置いておきたいのが、発達障害だからといって、すべての生徒がこのようなトラブルを起こすわけではないということだ。発達障害のある人全体の中のほんの一握りである。
しかし、教育困難校では特にこうしたトラブルを起こす生徒の割合が高いという。
関西の教育困難校に勤務する教員は次のように話す。
「うちの学校では9割の生徒が貧困家庭で、6割がひとり親家庭、半分くらいが小中学校時代に不登校経験のある子たちです。つまり、発達障害だけでなく、家庭にも問題があり、小中学校時代から何かしらの困難を抱えてうちの学校に来る。そういう意味では、発達障害のある子の中でも特殊な子が多い印象があります」