2023年度(1月~12月)に反響の大きかった記事をジャンル別でお届けする。今回は「スポーツ記事(男性編)ベスト5」で第3位、児童養護施設出身のボクサー・苗村修悟選手のインタビュー記事だ。(初公開日:2023年7月4日。記事は公開日の状況。ご注意ください)

#1 「一般家庭で育った人たちや社会に対して何クソっていう…」養護施設出身ボクサー

3年の空白期間

20歳の頃、坂本博之氏が会長を務めるSRSボクシングジムに入会した苗村だったが、すぐに足が遠のいてしまった。そして最後にジムに姿を見せてから、あっという間に3年が経った。

「東京での生活では練習時間を確保するのが難しくて。でも同棲していた彼女とも別れて、『やっぱりこのままじゃいけないな』って、もう一度ジムに勇気を出して顔を出したんです。そしたら坂本会長は『おお、苗村、戻ってきたか』とだけ言って、笑顔で出迎えてくれたんです」

苗村にとって、坂本氏の懐の深さを感じた出来事だった。待ち続けた坂本氏にそのときのことを尋ねると、短くこう言った。

「ボクシングは本人の気持ちが大事だから」

そこからはプロデビューに向けて坂本氏の指導の下、みっちりと練習を重ねていく。プロデビュー戦は2019年9月、豪快なダウンを奪っての1R TKO勝ちだった。苗村は振り返る。

「勝ったときは不安から解放されて安心したのと、同時に自分の存在が証明された感じがしました」

初めてジムを訪れてから、5年が経っていた。

デビュー戦、勝利後の控え室で(写真提供:SRSボクシングジムブログより)
デビュー戦、勝利後の控え室で(写真提供:SRSボクシングジムブログより)
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その後はすべて豪快なKOで、破竹の3連勝をおさめる。師匠の現役時代と重ねて、“坂本二世”という評判が聞こえてきた。しかし腕を思いっきり振って相手をなぎ倒すスタイル自体は、「俺の指導ではないよ」と坂本氏はいう。

ジムには現役時代の坂本氏の写真が飾られている
ジムには現役時代の坂本氏の写真が飾られている

「たまたまKOで勝ってるけどね。それよりボクシングは打たせちゃダメ。俺みたいに、打たれてもいいから自分も打つ、という戦い方は真似してほしくない。畑山(隆則)選手との試合で俺も倒れたでしょ。

『俺のようになれ』ではなくて、『俺がされて嫌だったボクシング』を手本に指導している。俺は4人の世界王者と戦ったけど、一番技術的にかなわないと思ったのは初戦の(スティーブ・)ジョンストン戦。とにかくパンチが当たらなくて、試合中びっくりした。彼がみんなのお手本」