人類への貢献につながると信じ続けた研究人生
教授に昇格することなく2013年にペンシルバニア大学を去ったカリコ氏は、ドイツの医薬品会社ビオンテックの副社長に就任。ビオンテック社はmRNAの可能性を見抜き、2018年にはmRNAベースのインフルエンザのワクチンの臨床実験に入っている。
カリコ氏がmRNAの可能性に賭けてから40年。なぜこれほどまでに研究にこだわったのか?
「もちろん、私自身がmRNAの可能性に魅了されてきたからです。リサーチを続ければ続けるほど、mRNAの可能性を信じるようになりました。人類への貢献につながると信じ、中途半端にやめることは道徳的に無責任だと自分に言い聞かせました。家族の励まし、特に100%以上のサポートを惜しまなかった夫の助けなくして、ここに到達することはできなかったと思います」
研究に捧げる姿を見てきた彼女の母親も、「ノーベル賞に値する仕事です。がんばりなさい」と励ましてくれたという。
どんな逆境に置かれてもギブアップせず、歯を食いしばって信じる道をつき進んだ結果が、今回のノーベル賞に繋がったのだ。
最後に「今ではビリオネアですね?」と投げかけると、こんな言葉が返ってきた。
「共同研究者のドリュー・ワイスマンと私は、mRNA技術を世界中で自由に使えるようにしたいと思い、当初、特許を申請しませんでした。ところが大学のIP担当部門に『特許を取っていない技術を使いたい人はいない』と言われて申請したんです。その後、権利はペンシルバニア大学に譲渡され、大学は特許をビオンテックとモデルナへ売却してしまいました。私たちの手元に届く金額は微々たるものですから、ビリオネアではありません(笑)」
取材・文/中島由紀子