その事件とは、1960年に発生した社会党党首・浅沼稲次郎暗殺事件だ。
演題で演説中の浅沼氏が、17歳の少年に急襲され、刃物で刺殺されたのだ。
この事件以降、全国に広がった“刃物を持たない運動”に圧(お)され、「肥後守」は徐々に子供の手から取り上げられ、姿を消していったのだという。

先に「肥後守」とは商品名であると書いたが、全盛期の1950年代、兵庫県三木市には“肥後守タイプ”のナイフを製造する鍛冶屋が多数存在し、どうもこの形状のナイフの一般名詞として“肥後守”が使用されていたのが事実。
三木市の洋刃製造業者組合の組合員であれば使用することのできる名称であり、いろんなメーカーから“肥後守”が発売されていたのだ。
だがやがて「肥後守」は登録商標となり、現在は同市にある永尾かね駒製作所がつくるナイフのみが使える商品名となっている。

つまり「肥後ノ王様」も、近代的な諸事情によって否応なく改名したのかもしれない、“元・肥後守”なのだ。
これはこれでなかなか面白い歴史であり、そうしたことを知ると僕の「肥後ノ王様」にも愛着が湧いてくるから不思議なものだ。

どんなに魅力的なナイフでも、“正当な理由”なく持ち歩くと検挙されるのでご注意を

そんなこんなで「肥後守」の魅力に今さらながら取り憑かれた僕は、ここ1年足らずの間に次々と購入していき、現在では4本(1本の王様含む)の所有者になっている。

こうして並べてみると、必要最低限のシンプルな構造ながら、実に美しいナイフだ。

ワールドワイドなブーム継続中! 「肥後守」ナイフの古風で不思議な魅力とは_e
現在所有している4本の「肥後守」(「肥後ノ王様」含む)。一本一本手作りされているので、刃の形や開き具合などそれぞれ個性的。そこも魅力なのだ

そのうえ切れ味抜群。
男の所有欲を刺激しまくる道具であり、再評価されるのも当然だと思える。

さまざまなバリエーションがあるため、刃や鞘の素材、また大きさによって値段はまちまちの「肥後守」。
中には1万円前後もする限定品もあるが、僕が持っているのは1000〜3000円前後の普及品ばかりだ。
この気安さもまた、コレクションしたくなる理由のひとつなのだろう。