食料危機の震源はアフリカだけではない
2020年の世界人口78億人のうち、たった2つの国で28億人(36%)を占める中国とインド。
中国は、一国で世界の穀物輸入の16%を握り世界の穀物市場を揺るがす影響力を持つ一方、今後経済力を増すとの声が大きいインドは、中国を超える食料消費大国にのし上がることが目に見えている。
食料消費の量的な増え方は人口の増え方・所得の増え方・国家の経済力との関係が強いので、順番に見ていくとしよう。
まず人口である。国連は2035年の世界人口を88.5億人、うち中国14億人・インド15.6億人、合わせて30億人とみている(2か国で34%を占める)。
次いで国家の経済力のモノサシでもある1人当たりGDP。2020年時点、中国は1万ドルと少し、インドは1930ドル、両国とも先進国レベルからかなりかけ離れ、特にインドはケニア・バングラデシュ並みの低レベルである。
しかし予想される2035年では、中国がいまの2倍の2万ドル強、インドが3倍強の6400ドルに達するとみられる。そのとき、国全体のGDPは中国がアメリカを抜いて、世界一に躍り出る可能性が高いとする専門家が少なくない。インドは世界第3位になる見通しだという(日本は10位程度とみる専門家が多い)。
インドの2020年当時の食料輸入量は国内需要の1%にも達していないが、これは経常収支が恒常的に大幅な赤字構造にあり、輸入制限がかかっているためでもある。
1人1日当たりの摂取カロリーでは、インド人は2320キロカロリー、中国人を120、日本人をも100キロカロリーも下回っている。インド人の青年男子の平均身長はほぼ日本人並みであり、体格を基準にすると摂取カロリーが少ないことがうかがわれる。
経済力の乏しい国を想像もできない飢餓
もっと食べたいインド人は経済的理由から、食料の輸入が増やせない状態に甘んじてきたのである。しかし経済成長が本格化しつつある中、経常収支は黒字に転換することが予想され、輸入を抑えてきた足かせは一気に解けるであろう。
となると、食料輸入は国内消費の必要な分だけ増える可能性がある。食料輸入を決める基準は経済力だからだ。
人口・経済力・国際収支、三拍子そろった力をつける中国とインドは、世界食料需要の面でも世界の頂点に立つ可能性が十分にある。
将来、たとえば2035年の主要穀物(小麦・コメ・トウモロコシ・大豆)の需要見込み量は中国が8億8000トン、インド7億8000万トン、合わせて16億6000万トンに達するとみられる。中国の人口はピークを越えたといわれるが、再び増加する可能性もあると同時に、所得の向上が社会の隅々に浸透することによって濃厚飼料による高級な畜産物需要が大幅に拡大するだけでなく、高級小麦粉やスイートコーン、ビール原料の大麦などの需要が高まることが予想される。
このときの穀物の世界生産量は35億7000万トンと見込まれ、中国とインドがその半分近くを食べるという、信じられない事態が起こりうる。
繰り返しになるがそのときの世界人口は88.5億人、中国とインドを除くと58.5億人、強者の中国とインドという2つの国家の取り分を除く穀物の残りは19億トン。これを残る58.5億人が分け合うとして1人当たり分配量はわずか320キログラム、畜産物の飼料分や加工用途その他の用途分を合わせると、約200キログラム近く不足するであろう。
2035年以降、中国とインドが食料を奪い、世界の畜産物生産がこのまま増えていくと、経済力の乏しい国を想像もできない飢餓が襲う可能性がある。
1人当たりの穀物が500キログラムはないと、世界の飢餓は解消されないことがこれまでの経験が示す基準値である。経済レベルがなお低いインドが取ろうとしている方法は、遺伝子組換え穀物の大幅な植え付けであることが明らかになっている。この点は別の箇所で紹介しよう。インドばかりではなく、同じような対策に多くの国が触手を伸ばしている。
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