樹木は伝染病にかかっていた
ナラ枯れとは、6月上旬頃から木の幹に巣食う、カシノナガキクイムシという体長5ミリ程度の小さな甲虫によって引き起こされる樹木の伝染病。カシノなんとかムシはナラ類やシイ・カシ類などの、太い幹を持つ木をターゲットとし、自分たちの餌となる菌とともに「ナラ菌」と呼ばれる病原菌を運び込みます。
持ち込まれたナラ菌は、ムシによって穿たれた坑道を伝って樹内に広がります。そこで樹木は、菌の蔓延を防ぐためにみずから通水をストップ。かくして7~8月頃には葉がしおれて枯死に至ります。 木の中で成長した新成虫は翌年6月、ナラ菌を持って立ち枯れた木を悠々と脱出。健全な樹木に飛来して巣食うことで、被害がどんどん拡大するのだそうです。
ナラ枯れで死んだ樹木は、枯葉の色が特徴的です。秋になって自然に枯れた葉のような明るい茶ではなく、なんとなくまだ湿り気を帯びたような赤茶色をしているのです。
枯れてもすぐに落葉しないのもまた特徴です。死んだ木は枯れ葉を茂らせたまま、緑の葉を蓄える周囲の健全な木の間で、恨めしそうに立ち尽くしています。その姿はまるで幽霊かゾンビ、あるいは落武者のようで、見ていると背筋がゾクッとします。
「菌の蔓延を防ぐためにみずから通水をストップ」というのも、まるで覚悟を決めて切腹した侍のようで、実に悲しいお話ではありませんか。
立ち枯れた木に近づいてよく見ると、幹の下の方にはカシノなんとかムシが侵入した痕跡である小さな穴、そして木の皮の間や根元には、細かなパウダー状のものが貯まっています。これは「フラス」と呼ばれる、カシなんちゃらムシの排泄物と木くずが混じったもの。ヤツらは宿主である樹木がゾンビ化した現在も、この樹幹の奥深くでぬくぬくと暮らしているのです。
恐ろしや。
ナラ枯れは周期的に流行と衰退を繰り返す樹木の疫病で、ここ数年は山梨県以外にも、関東を中心に日本各地で大量発生しているようです。多くは人が住まない山中で発生するし、放置していても自然に収束するので、あまり積極的な対策は打たれないようです。人里の木がやられると枯死した木が倒れたり枝が落ちたりして人的被害が出る可能性があるので、行政によって伐り倒され、虫ごと燻蒸して始末するようです。山中湖村では予防的措置として、虫を捕獲する粘着シートを役場で配っています。
我が家の庭にも、ターゲットとなるクヌギが何本も生えています。来シーズンのムシさん飛来の前に、必ず対策をしようと思っています。