大人用紙オムツも嫌がってしまう

翌朝――。
カミさんは、いつもと変わらない様子で起きてきた。

「ペコ、昨日、トイレが上手くできなかったのか?」

「どうして? そんなことないわよ」

「階段に大便がたくさん落ちていたんだよ。もしかして、トイレに間に合わなかったんじゃないのか?」

「知らないわよ、あたしじゃないもの!」

カミさんは、本当にまったく覚えていないのだ。それどころか、「よく覚えていないけれど、もしかしたら、粗相してしまったかも……」と顧みようとする素振ぶりさえない。彼女の答えは、頑なまでの“完全拒否”だった。

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大山のぶ代さん(共同通信)

この頃から、カミさんはトイレを普通に使うことができなくなっていた。一人で用を足すことはできても、流すことを忘れてしまう。きちんと便器に用を足すこともできないことがあるので、彼女が入った後のトイレは、そこらじゅうが汚れていた。

我が家には2階と3階にトイレがあり、3階のトイレは洗面所と一体型になっている。ある日、3階のトイレで顔を拭こうとしたら、タオルが妙に臭うことがあった。顔を近づけてよく見てみると、黒っぽいものが……。きっと、彼女が便を触った手でタオルに触れてしまったのだろう。

また、あるときは、お尻を拭かずに下着をはいてしまい、下着に大便がついていたこともある。次第に、尿意をもよおしてトイレに向かっても、ペコは間に合わず途中で漏らしてしまうことも増えるようになってしまった。これでも、僕も家政婦の野沢さんも、掃除がとても追いつかない。

2014年の夏頃だっただろうか。
ついに、カミさんに大人用紙オムツをはいてもらうことにした。

当初、彼女は嫌がって、オムツを脱いでしまうことが多かった。トイレに行くと汚れたオムツを脱いで、そのまま何もはかずにパジャマのズボンを上げてしまうのだ。

当然、お尻をきれいに拭いていないので、ズボンはどんどん汚れてしまう。おかげで、パジャマのズボンを何本ダメにしたことだろうか。おそらく10本はくだらないだろう。