「自分たちのサッカー」と胸を張れるスタイルがもたらした優勝

もっとも、万事、うまく進んだのかといえばそうではない。特に猛夏での消耗は激しく、ましてや24節・柏レイソル戦でチームの主軸として戦ってきた齊藤未月が重傷を負って戦列を離れた動揺もあった中で、8月の4試合は1勝2分1敗と苦しんだ。

さらに、上位チームとの対戦が続くシーズンの最終盤に向けて、9月上旬のリーグ中断後、最初の試合となった27節・サンフレッチェ広島戦に敗れた際は、内容を含めて完敗だったこともあり重い空気がのしかかったと記憶している。だが、結果的にその敗戦を、再びチームが加速するきっかけにできたことが流れを大きく変えた。28節・セレッソ大阪戦後、酒井高徳が話していた言葉がそれを物語る。

「サッカーは攻撃も守備も表裏一体。いい攻撃をしていればいい守備ができるし、いい守備をしていればいい攻撃ができる。その連動を生むには、間違いなく選手同士の『距離間』が大事になる。前節・広島戦ではいい守備もいい攻撃もできなかった中で、この1週間はその反省をセレッソ戦にどう活かすのか。
自分たちは何をすべきなのかを意識しながら準備してきて、今日は全員が各々のやるべきことを真摯にやり抜けた。チームとして勝つべくして勝てた試合。このサッカーを最後まで見せ続けていきたい」(酒井)

事実、このC大阪戦でシーズン序盤から示してきた本来の輝きを取り戻したヴィッセルは以降の試合を無敗で駆け抜けると、33節・名古屋での勝利でタイトルに結実させる。
指揮官が今シーズン、もっとも口酸っぱく言い続けた「先を見ずに目の前の1試合、1試合」との言葉通り、どんな結果にも驕ることなく、常に『課題』に目を向け、成長を求めて愚直に積み上げてきた33試合の答えがそこにはあった。ヴィッセルに加入して5年目。今年もほとんどの試合でキャプテンマークを左腕に巻いて戦ってきた山口の言葉が重く、光る。

「1試合、1試合を真摯に戦いながら、自分たちのサッカーと言えるものを作り上げてきた。それを信じて戦えたことが、自分たちの強さに変わっていったシーズンでした。ただ今はまだ『今年は自分たちのサッカーができた』というだけ。これを継続していかなければ意味がない。あくまで始まりだと思っています」(山口)

優勝セレモニーでシャーレを掲げる山口蛍(中央) 写真:森田直樹/アフロスポーツ
優勝セレモニーでシャーレを掲げる山口蛍(中央) 写真:森田直樹/アフロスポーツ

1995年のチーム発足から29シーズン目。阪神淡路大震災が起きた1月17日に生まれ、神戸の街と共に復興の道を歩んできたヴィッセルの歴史に、初めてJリーグ王者の称号が刻まれたこの日。ヴィッセルは『常勝チーム』への成長を誓い、新たな一歩を踏み出した。

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取材・文/高村美砂