家族から見た畠山理仁と妻への感謝

博士 そうか。ああ、これは記事にしなくていいんだけど、ボクが映画のディテールでいいなあと思ったのは、ちゃんとした家庭があり、仕事部屋が片付いていることなんだよね。

畠山 ええっ、汚いと思っていますが(笑)。

博士 まあまあ。お子さんたちもすこやかに育っているし。家庭を映した場面を見ると安心しますよね。

前田 たしかに。取材の現場だけ見ていると、家庭はどうなっているんだろうと思いますものね。

博士 子供がドラマ「積み木くずし」のようになっているんじゃないか、とかね。

畠山 逆に、カメラに向かって「うちの父がご迷惑をかけていないでしょうか?」と子供に心配されていますから。

博士 あれは本当にホッとするね。もう、あの映画に映っていたのと同じ大きな机を買おうと思っているからさあ。

畠山 机ですか。

「こんなアンフェアなことが許されるのか!」選挙に取り憑かれた“絶滅危惧種ライター”に引退撤回を決意させた、ある国政政党とのバトル【映画『NO選挙,NO LIFE』公開記念鼎談】_3
映画『NO選挙,NO LIFE』より

博士 ウチもすごい資料の山だから。どこに何が入っていて、どう取り出すのかというのは覗き込んで見ましたよ。こんな昔のポスターまで残してあるんだ。撮影済みのビデオテープはこんなふうに整理しているんだ、とか。整理がダメだとアウトプットできませんからね。

前田 資料はたしかにすごい量でした。

畠山 選挙関係のものは、ぜんぶ捨てずに取っています。ビラとかも。

前田 ヤバくないですか?

畠山 ええ。活躍の度合いが少なそうなものはクローゼットの奥にしまい、必要に応じて取り出しています。捨てる、捨てないと区分けをしてしまうと「あるかも」と探して「ない」ということになるので、全部置いておく。とくに政治家の本はほぼ初版限りなので目にしたら買う。そういう二度と手に入らないものばかりが溜まっていって(笑)。

博士 ドキュメンタリーとか本とか書く人はファクトが大事だから一次資料はとっておくんだよね。だから、取材する仕事を支えるものが何かというのがわかって面白かったねえ。

前田 私も現場の畠山さんしか知らなくて、いつもキッチリされている人だという印象だったんですが、妻の洋子さんに聞くと「ぜんぜん」と言われるんですよね。家族が見ている夫、父の姿とのギャップが──。

畠山 家庭内でのあまりの地位の低さに(笑)。

博士 そういうもんですよ。だいたい家の中で威張っている男はロクでもない。

畠山 僕は、前田さんが家族に取材している現場には立ち会っていないんですよね。自由に話せないだろうなと思って。作品になった後、家族が自分のことをどう見てくれているのかを知り、これは感謝しないといけないと思いました。

博士 あそこは映画のキモですよね。

前田 ただ今回、私は「畠山さんの肩越しに選挙戦を見る」というのを命題にしていたので、ご家族に会うことは当初考えになかったんです。だけども、畠山さんが度々話す妻の存在が気になって。畠山さんが選挙取材をやめようかと思うと相談したら妻から「やめてはいけない」と背中をつよく押されたという。本当なんだろうか?

畠山 そう。家族の存在自体を疑われていましたよね(笑)。このひとは、妄想で家族の話をしているんじゃないかと。

前田 どうしてもここは確認をしたいと思うようになって。

博士 びっくりするほど、妻はカメラの前でちゃんと話されている。

畠山 僕は断ると思っていたんです。もしくは、よくある、顔が映らない。首から下だけカメラが撮っているとか。

前田 事件取材に多い。

畠山 そうそう。