「ボクの政策秘書になってくれ」参院選で当選した水道橋博士の打診に“元祖・選挙ライター”の出した答えは…【映画『NO選挙,NO LIFE』を語る】
近ごろ「政治」「選挙」を扱ったドキュメンタリー映画が活況だ。数年前なら考えもしなかったことが、いまや大きな台風に化けようとしている。そこで今回、前田亜紀監督の『NO選挙,NO LIFE』公開に際して、同作の主人公にして「絶滅危惧ライター」と呼ばれる畠山理仁氏、彼をよく知る水道橋博士と前田監督の3人で、映画のバックストーリーを語り尽す。(#1・#2)
畠山理仁×水道橋博士×前田亜紀#1
「日本列島、全員立候補!!」
前田 私が取材を始めた最初のころに、「なんでこんなことをやっているんですか?」と畠山さんに訊いたんです。もう20年以上も続けていると既視感もあるだろうに何で飽きないんですか?と。そのとき「世の中には決まったことはない、というのを知りたいのかなあ」とおっしゃられたんですね。
博士 そうなんだよ。「泡沫」だとか言って軽んじられるけど、畠山さんに「彼らこそが今の政治を変えようとする勇気ある人なんです」と言われると、本当に一人一人がそう見えてくるんだよねえ。
それでこの映画のディテールにこだわると、畠山さんが怒る場面。ふだんはとても温厚な人がこんなに怒るんだという。あそこは注目だね。
前田 ありがとうございます。
博士 あと、N党がなぜあんなにたくさんの候補者を立てるのか。それは得票率2%の壁を超えて「国政政党」の要件を満たすと年間3億6千万円くらいのお金が党に入るからで、映画の中で、そういうソロバンづくの思惑があるということを公にしているのは重要です。
畠山 彼らは隠しているわけでもないんですけど、そういうところを報道はあまり取り上げないんですよね。マスメディアが大きな力を持っている時代は、黙殺しておけば影響はなかった。けれども、いまはネットの影響力が大きくなって、無視しても這い上がってくる。
既存メディアはどう取り上げていいかわからない状態になっているんだと思います。従来の選挙とは違う「価値観」で戦う人たちも出てきているんですが、選挙には変わらないこともあるんです。博士もそうですが、取材をしていると立候補する人たちはみんな楽しそうなんですよね。
博士 うん。大阪で訊かれたね、「楽しいですか?」って。楽しい、楽しいと答えた。
畠山 みなさんそうおっしゃる。もう、「日本列島、全員立候補!!」という映画を撮りたいくらい。だから僕は人に会うたびに「選挙出ませんか」と声かけをしています。「もし、自分が選挙に出たら」とシミュレーションするだけで、政治に対する見方は変わると思っています。そのことがこの映画を通して伝わってくれたらいいなあと。僕が作った映画じゃないですけど。
前田 アハハハ。どうぞ、ご自分の映画だと思ってください。
(後編に続く)
構成/朝山実
『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、東京・ポレポレ東中野、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショーで絶賛公開中!
#2「こんなアンフェアなことが許されるのか!」選挙に取り憑かれた“絶滅危惧種ライター”に引退撤回を決意させた、ある国政政党とのバトル【映画『NO選挙,NO LIFE』公開記念鼎談】
2021年10月5日発売
1,760円(税込)
四六判/304ページ
ISBN:978-4-08-788067-0
選挙取材歴20年以上! 『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した著者による”楽しくてタメになる”選挙エッセイ。
2020年3月の熊本県知事選挙から2021年8月の横浜市長選挙まで、新型コロナウイルス禍に行われた全国15の選挙を、著者ならではの信念と視点をもって丹念に取材した現地ルポ。「NHKが出口調査をしない」「エア・ハイタッチ」「幻の選挙カー」など、コロナ禍だから生まれた選挙ワードから、「選挙モンスター河村たかし」「スーパークレイジー君」「ふたりの田中けん」など、多彩すぎる候補者たちも多数登場!
<掲載される選挙一覧>
熊本県知事選挙/衆議院静岡4区補欠選挙/東京都知事選挙/鹿児島県知事選挙/富山県知事選挙/大阪市住民投票/古河市長選挙/戸田市議会議員選挙/千葉県知事選挙/名古屋市長選挙/参議院広島県選出議員再選挙/静岡県知事選挙/東京都議会議員選挙/兵庫県知事選挙/横浜市長選挙
黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い
畠山 理仁
2019年11月20日発売
924円(税込)
文庫判/376ページ
ISBN:978-4-08-744049-2
落選また落選! 供託金没収! それでもくじけずに再挑戦!
選挙の魔力に取り憑かれた泡沫候補(=無頼系独立候補)たちの「独自の戦い」を追い続けた20年間の記録。
候補者全員にドラマがある。各々が熱い思いで工夫をこらし、独自の選挙を戦っている。何度選挙に敗れても、また新たな戦いに挑む底抜けに明るい候補者たち。そんな彼・彼女らの人生を追いかけた記録である。
2017年 第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作
【目次】
第一章/今、日本で最も有名な「無頼系独立候補」、スマイル党総裁・マック赤坂への10年に及ぶ密着取材報告。
第二章/公職選挙法の問題、大手メディアの姿勢など、〝平等"な選挙が行なわれない理由と、それに対して著者が実践したアイデアとは。
第三章/2016年東京都知事選挙における「主要3候補以外の18候補」の戦いをレポート。
【選考委員、大絶賛! 】
キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの、何と個性的で、ひたむきで、そして人間的なことか。――姜尚中氏(政治学者)
民主主義とメディアについて、今までとは別の観点で考えさせられる。何より、作品として実に面白い。――田中優子氏(法政大学総長)
ただただ、人であることの愛おしさと愚かさを描いた人間讃歌である。――藤沢 周氏(作家・法政大学教授)
著者の差し出した時代を映す「鏡」に、思わず身が引き締まる。――茂木健一郎氏(脳科学者)
日本の選挙報道が、まったくフェアではないことは同感。変えるべきとの意見も賛成。――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)