練習がイヤでイヤで、ケガをしたら練習しなくてもいいかと

佐々木 「早慶戦」はある意味、現役選手以上にOBも燃えるからね。ぼくらも「死ぬ気でがんばります」と口にするんですけど、あれは比喩じゃなかったよね。実際、慶應のタックルはスゴかった。冗談ではなく命をとられるかと思うほどの激しさでぶつかってくるから。

強烈なタックルをものともしない、早大ラグビー部時代の佐々木社長
強烈なタックルをものともしない、早大ラグビー部時代の佐々木社長

福澤 ぼくらはそうするしかなかったんですよ。というのも当時、慶應のラグビー部に入ってくる選手はほとんどが付属校出身です。高校ラグビーでならしてきたような部員はいないので、フォワードはラグビーの基本ともいえるタックルとスクラムの練習をするしかしない。ひたすら、タックル、タックル、タックル、スクラム、スクラム、スクラム……。思い出してもイヤになります(苦笑)。

でもラグビーって不思議なスポーツで、日本代表クラスのバックスが揃っていても、フォワードがスクラムで負けると劣勢になってしまう。逆にスクラムで勝てれば、いけそうな気がしてくる。当時は、タックルで相手を止めて、スクラムで押すという、実にシンプルなラグビーをやっていました。

「練習がイヤでイヤで仕方がなかった」という慶應ラグビー部時代の福澤監督(右)
「練習がイヤでイヤで仕方がなかった」という慶應ラグビー部時代の福澤監督(右)

佐々木 慶應のスクラム練習はスゴかったよね。覚えているのは、春に慶應のグラウンドで練習試合をしたときのこと。試合を終えた後、ぼくらは風呂に入って休憩していたんですよ。そうしたら慶應のフォワードが「よし、いまからスクラム練習だ」とか言って、レギュラーメンバーがスクラムを組みはじめた。当時の慶應の練習量は異常だと思ったし、特にスクラムの練習量は日本一だった。

福澤 正直、ぼくは大学時代、練習練習の毎日で授業を受けた記憶がないんです。ラグビー部の寮に入っていたのですが、起床後、すぐに朝練があって、昼からは下級生だけの練習があって、夕方から夜遅くまで全体練習をする……。で、汚い風呂に入って、ご飯を食べて、体操をさせられて、深夜12時にやっと寝られる。

唯一ひとりになれるのが、トイレの便器に座っているときだけ。もう練習がイヤで、イヤで、道路を走ってるクルマに突っ込もうと何度も思いましたよ。ケガをしたら練習しなくても済むと思って。

佐々木 その気持ちはわかるな。当時、慶應のスクラムの練習量が日本一だとしたら、早稲田の走る量も日本一だった。ぼくらのころは「トップスピード」と呼ばれる練習がありました。大きく蹴り出したボールを全力で追いかけていって、それを延々と続けるんですが、ボールがコロコロと転がって、ゴールポストのほうにいくと、“あのポールにぶつかって倒れれば、練習を休めるかもしれない”という考えが一瞬頭をよぎるんです。

それで、「今だ」とポールに飛び込もうとするんだけど、人間って弱いもんで、ギリギリで避けちゃうんだよね。自分はなんて弱い人間なんだろうと思いました(苦笑)。あれは40年以上経った今も忘れられません。

「気を抜いたら慶應に本当に殺されるぞ!」OBが明かす“絶対に負けられない”ラグビー早慶戦今昔秘話〈TBS佐々木社長×『VIVANT』福澤監督〉_5