難民生活を支えるアルバイトの実態
教育系のアルバイトは、逼迫している経済状況では割に合わず、難民生活の受け皿としては機能しなくなっているようです。加藤絵美さん、菊地明日香さんのように、短時間高収入のセックスワークで乗り切った人々もいました。
私は女性ふたりの話を聞いていて、ジャネット・エンジェル著/那波かおり訳『コールガール』(筑摩書房、2006年)を思い出していました。ピンク色の帯に「私は大学教師(プロフェッサー)、そして売春婦」「アメリカにも東電OLが!?」と書かれたこの本は目を引き、つい手に取ってしまったのです。
著者のジャネット・エンジェルは、イェール大学で神学修士、ボストン大学で人類学博士号を取得しています。いかにも難民化しそうな経歴ですが、やはり、就職の間口は狭かったようで、大学の講師をしていた34歳の時、同棲中の恋人から貯金を持ち逃げされたことで生活に窮し、昼間は大学で教え、夜はコールガールという二重生活を送るようになります。
セックスワークは、高学歴の女性とは無縁の職業と思われるかもしれませんが、普段、大勢の学生を前に講義をしている高学歴難民にとって、スーパーやファストフードでアルバイトをしている姿を見られたくないという事情から、その選択は理解できないものではありません。
「秘密の空間」で、素性を知られることなく効率的にお金を稼ぐことができることが最大のメリットであり、教職者と売春婦という、相容れないはずの二つの顔を密かに持っているスリルはなかなか手放せなくなると、日本の高学歴難民女性も証言しています。
果たして、二重生活に終わりは訪れるのでしょうか……。
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