有効率はだいたい95%ってどういう意味なのか
で、この「95%ってなんなん?」って話ですよね。ここで、有効率の計算方法を確認しておきましょう。
実際のデータで見てみましょう。臨床試験では、ワクチンを接種したグループと、接種していないグループで比較します。接種群と非接種群の2つのグループに分けられます。
接種群の中には、新型コロナになった人と、ならなかった人がいます。さらに2つに分けられますね。非接種群にも、新型コロナになった人と、ならなかった人がいます。これも2つに分けられます。
というわけで、合計4つのグループができます。
これを2×2表といいます。ニカケルニヒョウ、と読みます。なんで関西弁なの? はお気になさらず。書いている時のノリで決めています。
実際のデータを入力してみましょう。元論文は、(*1)です。
です。ぱっと見て、ワクチンを打っていないほうがたくさんコロナになっていることが分かります。
で、コロナになった/被験者全体、の割り算をします。
8/(8+18190)=0.00044=0.044%
162/(162+18163)=0.0089=0.89%
ここまではいいですか。しんどかったら、もう一度見直してくださって構いません。
で、両者の割合を見ます。
0.044%/0.89%=0.049=4.9%
で、これがワクチンによって減ったコロナなので、どのくらい減ったかは、
100-4.9%=95.1%
で、有効率95%となります。割合をさらに割り算しているので、慣れてないと「はあ~?」となりますよね。
のちに、英国で見つかった変異株「アルファ株」でも、おおむねワクチンの効果は変わりませんでした。また、さらに出現した「デルタ株」でも、ファイザーのワクチンの効果は88%で、若干下がったとはいえ、「それでも十分に効果あり」といえるものでした(*2)。
ところが、さらなる変異株「オミクロン株」では、ワクチンの効果が落ちています。例えば、オミクロンのBA・2に対しては、2回のワクチン接種ではほとんど効果が見られませんでした。が、3回目のブースターを打つと、ワクチンの効果は41.4%まで上昇しました。ブースターが重要だ、といわれるようになった所以です(*3)。
しかし、オミクロンのさらなる変異株、BA・4やBA・5については、さらにワクチンの効果は減弱します。よって、mRNAワクチンをBA・4、BA・5に合わせた「変異株対応」のワクチンが導入されました。
大事なのは重症化・死亡を防ぐこと
と、その前に。
ここまでは、「コロナ感染を防ぐかどうか」という観点から「有効性」を吟味しました。厳密には「症状のあるコロナ感染を防ぐかどうか」という論文を検証してきたのですが……。
しかし、もっと大事なのは「重症化を防ぐかどうか」です。これを吟味する場合は、例えば「入院するかしないか」「死ぬか死なないか」という、より重要なテーマで研究がなされます。
イスラエルで行なわれた巨大な観察研究だと、ファイザーのmRNAワクチンはコロナによる入院を97.2%減らしました。また、重症(集中治療室での治療を必要とするなど)例は97.5%、死亡は96.8%減らしました。mRNAワクチンは、コロナでの重症患者や死亡を劇的に減らしたのです(*4)。
僕らは2020年12月から2021年3月にかけて、野生株とアルファ株の重症度を神戸市の患者で比較しました。アルファ株のほうが死亡率は高い傾向にあって、12%、野生株では8%でした。
両者の違いはここでは重要ではありません(統計的にも有意差はありませんでしたし)。大事なのは「1割近くの死亡率」があったという事実です。この時期は、患者さんには新型コロナワクチンはまだ提供されていませんでした。そして、コロナになったら全員入院できていた(しなければならなかった)時代でした。爆発的に患者が増えて、自宅やホテルで療養……などとなったのは、もっとあとの話です。
で、当時は1割くらいの患者さんが死亡していたのですね。ワクチンのなかった時代のコロナは本当に恐ろしかったのです。
こういうのはすぐに皆忘れちゃうので、ちゃんと論文にしてデータを残しておくのが大事なのです。もちろん、コロナは「風邪」なんかじゃなかったのです(*5)。さて、ワクチンは他人への感染も減らします。オランダの研究では、家庭内での濃厚接触者で、ワクチン接種者と非接種者では、感染は71%減りました。3割くらいの感染が、1割くらいの感染に減ったことになります(*6)。