「真剣勝負」に勝てなかった悔しさがその後の原動力に
廣瀬 とはいえゴローたちがプレーした時代の早稲田は日本選手権で社会人に勝ったこともあったし、3度も大学日本一になれた。これは本当にすごいことで。たとえ社会人チームに勝つというチャレンジが失敗したとしても、その経験はきっと将来に活かされる。
五郎丸 そうですね。もちろんラグビーだけが人生のすべてではないですし。ラグビーに限らずとも、チームや組織にはさまざまな考えを持つ人間がいて、それらを受け入れていく必要がある。その意味で大学ラグビーを通して、組織の多様性を維持する大切さを知りました。勝ち負け以上に重要な価値に気づけたように思います。
廣瀬 早慶戦を通して、ぼくがもうひとつ実感したのが、真剣勝負ができる場があることのありがたさです。ラグビーは団体スポーツでは最も多い15人対15人、リザーブのメンバーも入れれば、23人対23人で対戦します。ひとりでは、当然戦えない。チームメイトがいて、その上で早稲田や明治というライバルがいたからこそ、真剣勝負ができた。そしてその真剣勝負に勝てなかった悔しさが、社会人でもラグビーを続ける原動力になった。
――ラグビーでは、試合後に相手チームの選手たちと健闘をたたえ合いながら食事をしたりする交流会、「アフターマッチファンクション」があります。これはまさに勝ち負け以上に大切な価値があることを象徴する、ラグビーならではのイベントですよね。
廣瀬 アフターマッチファンクションは、試合後に敵味方一緒になって、食事をしたり、ビールを飲んだりして互いに語り合う場です。大学の場合は立食形式ですが、テストマッチ(国と国との真剣勝負)ではきちんとしたパーティが開かれ、その国の文化やコミュニティを知る機会になる。試合では敵同士ですが、同じスポーツを愛する仲間という意識を共有できるとても大切な場だと感じますね。
ぼくらの世代は早稲田にほとんど勝てませんでしたが、早慶戦後のアフターマッチファンクションでも学ぶことは多かったように思います。正直、負けたら悔しいし、腹も立つ。でもふて腐れていたら格好悪いから、気持ちを切り替えて、アフターマッチファンクションを楽しんだ。負けても凜とした姿を見せたいなと。
五郎丸 トシさんらしいですね。アフターマッチファンクションは互いのチームの健闘をたたえ合うだけでなく、レフリーも参加します。そこでは我々もレフリーに感謝の言葉を伝えますし、レフリーからアドバイスももらえる。本当にいい空間なんです。
ただコロナ以降は会食が制限された影響もあり、アフターマッチファンクションを行わないケースも増えてきているんです。そもそも試合を終えたばかりの選手がビールを飲むのはいかがなものか、という声もある。確かにアスリートとして身体を気遣いたい気持ちもわかりますが、対戦相手や関係者との交流を大切にするラグビー文化は守っていってほしいですね。