おしこみ、ダミーへのタックル、落ち葉拾い…早慶戦ならではの伝統行事


五郎丸 おそらく、初めて超満員の秩父宮ラグビー場でプレーしたのが早慶戦でした。NHKで全国中継されますし、子どものころから見ていた早慶戦に自分も出るのかと思うと不思議な気持ちがしましたね。

廣瀬 ぼくも早慶戦は毎回緊張した。学生時代はあんな大観衆の前でプレーできる機会なんてほかにないですからね。

昨年は19―13で早稲田が勝利した。はたして今年は?(写真/AFLO)
昨年は19―13で早稲田が勝利した。はたして今年は?(写真/AFLO)
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五郎丸 私はその最初の早慶戦で、早稲田大学ラグビー部と、早慶戦の伝統を知った気がします。毎年、早慶戦の前日練習では、慶應のタイガージャージを着せたダミーにタックルするんです。慶應はどうでしたか?

廣瀬 早稲田大のジャージを着せてタックル…やったかもしれないですね。

五郎丸 早稲田のラグビー部の伝統で言えば、早慶戦前には「おしこみ」というしきたりがありました。お守り、塩、米、水を並べて、1年生が決められた通りに畳んだジャージを並べていくんです。そのジャージを監督が塩で清めて、お守りと一緒に選手に手渡してくれます。

メンバーに選ばれていても、1年生は全員ジャージを畳むという決まりがあったので、本当に苦労しました。ジャージのサイズを間違えたり、お守りなどの伝統儀式に必要な物の準備を怠ると、上級生に厳しく指導されました。

あとは早慶戦の前夜、グラウンドに落ち葉がひとつ残らないように徹底的に拾う「落ち葉拾い」という行事も忘れられません。あとは早慶戦、早明戦という伝統の一戦が近づくと寮に「緊張」と筆で記された紙が張り出されます。

廣瀬 そうしたひとつひとつの積み重ねが、早慶戦の重みにつながっていくんでしょうね。
今年で100回目ですから、100年分の積み重ねがあるわけで。そして選手たちだけではなく、ファンの人たちもその歴史や重みを知っている。そんななかで選手たちはプレーができるわけですから、そこは日本の大学ラグビー、そして早慶戦の最大の魅力だと感じますね。

後編 “人生に大切なことはすべてラグビー早慶戦にあった”組織論と真剣勝負、人とのつながり…スターOBが語るラグビー早慶戦の「人間賛歌」に続く


構成/山川徹