「家の中で、こんなきれいな子はいないですよ」

――お話を聞く限り、強烈なエピソードがたくさんありそうですが、第1話でこのエピソードを選んだ理由はなんだったのですか?

親と子の最もベーシックな話にしようと思いました。ただ、ベーシックだけど、あまりにも過酷な現実です。親にほぼ捨てられて入った児童養護施設には、幸せになろうとする女の子がいて、幸せにしてあげようとする職員さんがいる。そういった「児童養護施設とはなんぞや」というところから見せておかないといけないと思いました。

――第1話は、完成直前に大幅な手直しをされたそうですね。

精神科医療の分野であれば、絵についても私がネーム段階で細かく指示を出せるんですが、児童養護施設に関しては、専門的な視点で監修的に見てくれる人間が必要だと思いました。園長や職員にチェックはしてもらえますが、それとは別の角度で見てもらおうと何人かの専門家にあたったところ、みんな正面を切って「嫌だ」って言うんですよね。

――それは、個人情報の扱いが難しいからですか?

もう、研究のために役所からもらうデータすら見せられないと。「押川さんにお会いしてその根拠を示せとなったときに、私らは食っていけなくなってしまいます」と言ってました。そのくらい、国も世間に実態を伝えていないということなんですよ。

なので、知り合いの警察に頼んで、完全匿名で協力してくれる大学教授を紹介してもらいました。実際に、第1話を見てもらったところ、2ページ目を開いた瞬間に「あ~、やっちゃいましたね」って言うんですよ。

――何がいけなかったんですか?

「虐待をしている家の中で、こんなきれいな子はいないですよ」って。本当なら爪も伸びてるし、髪もぼうぼうだし、痩せているので、これは実態とかけ離れてますねって、もう目からウロコですよ。児童養護施設には、児童相談所に一時保護をしてもらってから入るので、きれいになった子供しか受け入れていないんですよね。

親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」_3
専門家の指摘を受ける前の絵
親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」4
専門家の指摘を受けて修正した後の絵

それこそ実際に私が働いてない部分で、まさにその専門家の意見が現場だよなと思いました。内容の部分をチェックしてくれと言っていたんですが、まず指摘してきたのは絵だったんです。

にんじんをお皿に乗せて出している絵も「ありえない」と言っていて、「これならコンビニの弁当の蓋とかですかね」って。そのアドバイスはたまらなかったです。実際に、描き直したものを見たら強烈でしたから。

親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」_5
専門家の指摘を受ける前の絵
親の性交渉を見た子供は、早くから自慰行為を始める…児童養護施設の目を背けたくなるような現実を描いた「それでも、親を愛する子供たち」_6
専門家の指摘を受けて修正した後の絵

――その先生には、今後も見てもらえるんですか?

ずっと見てもらいたいですね(笑)。ただ、この分野がすごくクローズドで、村社会なんだなと思ったのは、堂々と名前を出してそれを言えないとことなんです。確かに、専門家が堂々と正面を切ってこういうことを言っている本ってあまりないんですよ。論文も薄いし、やっぱりそういう何か“お約束”があるんでしょうね。