みんなの友だち・フワちゃん

ピン芸人としてゼロからのスタートになるはずだったが、時代は令和。その全てが彼女に味方した。感度の良い彼女はすぐにYouTubeを始め、SNSを巧みに使いこなし、あれよあれよという間に全国的な人気者になった。

なにかと鬱屈した現代に生きる視聴者は、自分たちが到底できない規格外の行動、ぶっ飛んだ発言、独自のファッションをまとう彼女を驚きと羨望の目で見ながら、どこかでこんな子を待ち望んでいたのかもしれないと思った。

そうして私たちの友だちは、みんなの友だち・フワちゃんになった。私は自分のこと以外で、これほど痛快な気持ちになったことはなかった。

フワちゃんが有名になりはじめてしばらくした頃、一緒にタイへ旅行に行った。 YouTubeの動画編集を自分で手がけていたフワちゃんは、ワット・ポーと呼ばれるバンコク最古の王宮寺院の中でも、地面に座り込んで編集していた。あまりの不遠慮さに笑っていたが、もうネタ合わせをサボって遊んでいた頃の芸人ではなくなっていることに気づいた。

Aマッソ加納がスカートめくり後に仲良くなった女芸人「生きるのがうまくて、生きるのがヘタだった」ブレイク前夜のフワちゃん秘話_4
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自分の手で道を切り開いていくために仕事を一番に優先している様子をみて、私は頼もしく思った。滞在中に軽い熱中症になって体調を崩したフワちゃんは、スイカジュースを20杯ほど飲み、その様子をSNSにあげるとファンから「スイカはカリウムが入ってるから逆に脱水症状になるよ!やめな!」とコメントで説教されていた。本当に全国に友だちができたんだと思った。

今は街中の看板で、コンビニで、あらゆるところでにっこり笑ったフワちゃんを見ることができる。そんな世界がこのままずっと続けばいいのにと思う。そしてそこで自分も同じ仕事をしていければ、こんなに嬉しいことはない。

先日、お昼の情報番組で久しぶりに共演できたが、VTR中に喋りすぎて別の共演者に「私語しないで」と注意された。スタジオも彼女がいれば教室の後ろの席になる。こんなことではお互い仕事を失うかもしれない。でももし昔みたいに何かやらかして仕事がなくなったとしても、そのときはまた無限に遊べるからOK、なんなら少しそれを待ち望んでいる自分もいる。「さいあくぅ!」という声が聞こえる。

『行儀は悪いが天気は良い』(新潮社)
加納愛子
Aマッソ加納がスカートめくり後に仲良くなった女芸人「生きるのがうまくて、生きるのがヘタだった」ブレイク前夜のフワちゃん秘話_4
2023/11/16
1,540円
207ページ
ISBN:978-4103553717
何にでもなれる気がした「あの頃」を綴った、Aマッソ加納、待望の最新エッセイ集!
実家に出入りしていたヤバいおっちゃんたち、突然姿を消した憧れの同級生の行方、「天職なわけではない」と言い切る芸の世界を志した理由、「何かを失った人間の中で一番最強」な親友・フワちゃんの素顔……。生まれ育った大阪から多感な学生時代、芸人としての日常まで、懐かしくて恥ずかしくて、誇らしくて少し切ない24編を収録。
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